「……はぁ……困ったわね。」


さくらニュータウンのど真ん中、白夜は一人、大きな溜息を吐いていた。

夏の風にそよそよと揺れる銀髪を抑えながら、どう見てもさっぱり意味の分からないメモ書きと睨めっこを続けていた。

今日は、兄であるエンマ大王から「帰ってこい。」と言われた日。
約束を破るとあのシスコン…………失礼、兄様はまた後からぐちぐち言うんだから……と、仕方なく妖魔界への帰路に着こうとしていたのだが、今はそのついでにとエンマ大王から以前頼まれたおつかいに向かっている所だった。

しかし、どう見てもメモ書きに書いてあるものの正体が分からない。ドラゴン……？ハンター……？？なんだろう、これは。

ディスク……とか書いてあるし、CDとかそんな類なのだろうか。
かと言って、この辺りの地区に詳しい訳でもないので当然店にも詳しくない。


「あぁ……全く……店の名前くらい書いておきなさいよ！」


そう、姿の見えないエンマ大王に怒りをぶつけても仕方がない。
こうなったら、人間に化けてその辺の人間に聞くか……。いっそ売り切れだったと本人に言ってしまうか……。
どっちでもいいから行動しなければ、いくら白夜自身が人間には見えないからっていつまでもここに居れば暑さでおかしくなってしまいそうだ。

ほぼ、真上から照りつける太陽と、公園の木々で鳴いているだろう蝉の声をうらめしく思いながら、とりあえずどこか影を探そう…………と振り返った時だった。


「…………気のせいよね？」


振り返った先に、人間がいた。


数メートル先に立っているその人間……推測するに10代くらいの少女だろうか。
黒い髪をしたその少女が、こちらをじっと見つめていた…………。いや、見つめているように感じた。

まさか、人間に今の自分の姿が見えるわけないし、きっと気のせいよね…………。たまに、あぁやって暑さにやられている人間を見ることもあるし…………。
そう片付け、近くの公園のベンチにでも行こうとした時だった。


「えっ…………ちょっと待って……銀髪緑眼のめちゃくちゃ美少女いる…………」



あぁ……確実に、自分のことだ…………。
そう、白夜は思った。