「‥では次！！切出！前へ！」
「はい！」



演技とはいえ‥映画上でとはいえ
自分以外の男と理央奈が
イチャついて、恋人になるのは
嫌だし認めなくない、と翔は
対抗心を燃やしながら前に出て
理央奈に向かう。



「(鳥雄に負けてられない！！
映画でもリアルでも彼女の心を
掴むのはこの俺だ！！)」



「よーい‥アクション！！」




カチンコが鳴らされ、ラブシーン
勝負が始まった
そして向かい合う翔と理央奈‥




「‥理央奈ちゃん、ここで
君の告白の返事をさせて欲しい」
「‥翔さん」




自分に向けられる緑色の瞳
ごくり、と唾を飲み込んで
セリフを口にした




「‥‥俺も、君のことが‥好きだよ」
「‥本当に？」



コクリ、と頷いて言葉を続ける



「君と初めて会った時から
君のことしか見てないよ
理央奈ちゃんが、好きで
仕方ない‥‥付き合って欲しい」




口から出る言葉は演技ではなく
「本気の言葉」であった
だが本気であることを見抜いたのは‥




「歯が浮く言葉だなおい」
「勉強になるなぁ」
「‥‥翔、本気だな‥」



現時点で恋をしている
妖、塊、鳥雄の3人だけだった

‥いや




「‥‥‥」
「‥ん」



そして台本の通りに‥理央奈の
体を抱き寄せて胸の中へと閉じ込める
理央奈は翔の背に腕を回し‥
2人は抱きしめ合う




「(‥‥‥)」




自分を抱きしめている翔と
自分と翔を見ている鳥雄を
理央奈は見ると、目線を下に落とした




「(‥‥恋心を持ってないのに、
そういう関係になっても失礼だ)」




‥理央奈も気がついていたんだ
本気だということに‥
だが自分が思いを寄せてもないのに
付き合うのは失礼だ、と
答えないようにしていた‥
好きにでもならない限り




「(‥カットまたですかね)」
「‥‥‥理央奈ちゃん」
「‥‥？」



とん、と自分の頭に感じた暖かな感触
なんだこれは？と頭をめぐらせ‥
翔が自分の頭に擦り寄り、頭を
預けているいる事に
気がついた



「(‥どーしよ)」



演技とはわかっているのに‥



「(このまま離したくない)」



このまま話したくない、
このままずっと抱きしめていたいと
思ってしまう



「‥翔さん」


「カット！！」



理央奈が声をかける前に
色音先生のカットが入り
理央奈は色音先生の方に
目をやった




「カット！！うーーん良かった！！
まるで本気で想っているかのような
演技力！！こっちまでドキドキ
してきたよ！そしてアドリブも見事！！」
「あの、翔さんカットになったので
離してください」
「‥‥もうちょっとだけ‥‥」
「おーい切出、もうカットだから
離れていいぞー」
「翔！！もう終わったの！！」



先生に言われても効かない翔に
べりっ！！と鳥雄が理央奈を
抱きしめる翔を引き剥がした。