むせ返るような血の匂い
逃げ惑い恐怖の表情で助けを乞う人々
崩壊した建物から煙が上がり…

誰がやった？


あぁ、これは…私がやったんだ



そう自覚した天才マンの足元には
血に濡れた、あの日の被害者達が
自分の足にしがみついて怨念のこもった
視線で恨み言を呟いた



「そうだお前がやった」



やめろ



「お前が殺した、お前が壊した
なのにどうしてのうのうとヒーロー
として生きている？」



やめてくれ



「どうしてのうのうとお前だけが
幸せになっている？殺された私たちの
苦しみや無念などうなる」
「全て壊したのに」
「返して、家族を返して」


やめろ！！！
耳を塞いで下を向きしゃがみこんでも
声は怒声隣浴びせられる


「お前のせいだ！！」
「お前のせいだ！！」
「「お前にあの子の隣にいる資格はない！！」」



………………………………………………………………………………



「っ！！」



がばっ、と天才マンは勢いよく起き上がる
まるで真夏の中羽毛布団にくるまっていた
かのように汗を全身にかき、心臓は
バクバクと忙しなくうるさく鼓動を立て
嫌な汗がスーツに張り付いて不快だった



「…はぁ…っ…」
「…くぅ…すー…」



息を整えて隣で眠る愛花を見る
結婚し、今は新婚として仲睦まじく
寄り添い合い愛し合い…幸せの絶頂にいる
……だが……




「(罪を犯した私が、この子と結ばれて
良かったのだろうか)」



復讐という名の甘美な響きに
つられて悪となり罪のない人々を
手にかけたことは変わらない事実
…だが、愛花がいなければ
自分は悪人のままだった
ヒーローとして戻ってくる事も
なかったんだ だが



「…失われた命は戻らない」



手にかけた人は戻ってこないのだ
分かってはいる 分かってはいるが…
ぐっ、と唇をかみ締めた天才マンの
瞳からは一筋涙が流れた
そんな彼の気配に気がついた愛花
が目を擦りながら寝返りをし、彼の
方を見て眠たい目を開いた



「…天才？どうしたの？」
「……愛花……」
「！？泣いてるじゃない、」



愛花は隣にいる夫である彼が
泣いていることに気がつき起き上がり
天才の瞳から流れる涙を指で拭いとる



「…怖い夢見た？」
「…少しな」
「…天才」



みんなの前では余裕を崩さないクールな
天才マンも…愛花の前でだけは
弱い所を見せて来た

彼女だけなんだ、こんな姿を見せれるのは

愛花は天才マンをそのまま
自分の胸の中へと閉じ込めて、優しく
抱きしめ頭を撫でる



「…大丈夫…大丈夫…私がいるよ」
「……愛花」
「私は何があっても天才から
離れない、ずっと一緒だから
…夫婦なんだよ私たち、だから」



優しく、慈悲溢れる笑顔を彼に向けた




「辛い時は私が支えるよ、甘えていいんだよ」
「………じゃあ」




そのまま天才マンは愛花の
背中に腕を伸ばした




「…暫くこのままでいてもいいか…？」
「もちろんだよ」




輝く金髪を撫でて背中を
優しくとん、とん、と宥める様にして叩く
愛花の温もりと優しさに
包まれて……幸福感が溢れて
沈んでいた気持ちも晴れていく




「(彼女の温もりを、離したくない)」




みっともない姿を見せられるのは
やっぱり、彼女だけだ
天才マンは目を閉じその温もりに
身を委ねた