絶望のどん底に突き落とされ咄嗟に
神才マンは言葉を失い何も答える
事が出来なくなった

………だが




「………構いません」
「っ！？きさ……………」



鬼才は真っ直ぐに医者を見つめて答えた
その表情に死に対する怯えも何も無く…

覚悟を決めた、母の表情だった



「難産になっても、私の命を引き換えにしても構いません………その時になったら……
切ってください！私のお腹を！」
「っ、鬼才！！」
「貴方」



鬼才は優しげな表情で神才マンに
向かうとその手を包み込むようにして
握ると彼の目を真っ直ぐに見て語り出した



「……私、妊娠したってわかった時
とても嬉しかった……ずっと夢だったの、
可愛い赤ちゃんを産むことが…お母さんになる事が、その夢が今叶うのよ」
「…………」
「……ワガママを言う許して貴方……私……愛しいあなたとの赤ちゃんをどうしても産みたいの」



本当はもっとわがままを言えば…
その我が子の成長する姿を見ていたいのだが…
自分の体のことはよくわかる、その願いは
叶うことは無いと……

でも……



「このお腹の中の赤ちゃんに、素晴らしい人生を歩んで欲しい、だから私産むわ……」
「…………っ………ぅ………！！」




「だから、貴方…この赤ちゃんの事をお願いしてもいいかしら……？」



熱い涙が一筋、神才マンの頬を伝い流れ…
顔を上げて鬼才の手を握り返して…

神才マンは、決めた。



「………………………わかった……………」
「……貴方……ありがとう」



その体を抱きしめ、神才マンは
愛しい彼女の体温を実感した
…この体温が、失われるのかもしれないと思うと怖かった




「（天の神よ、なぜ……）」



何故、この様なことを


この時神才マンは初めて神を恨んだ
そして同時に、鬼才が生還する奇跡を願った……



…………………………………………………………………………………


そして検査を受け終わり帰る途中で…
くい、と鬼才が神才マンのスーツの裾を引っ張った



「？鬼才、どうしたんだい？」
「赤ちゃんの名前………今ね、いい名前が浮かんだんだけど聞いてくれる…？」
「…なんだい？」


柔らかなほほえみで、鬼才はその赤ちゃんの
名前を告げた








「天才………天才はどう……？」


「…天才…」
「そう、貴方の名前から思いついたの……神からの才と来たら……天からの才………天才……」
「とてもいい名前だ……そうしよう、天才に」
「えぇ…！」




鬼才は嬉しそうに笑ってお腹をさすった
その表情は慈愛に満ちていた…