そしてその頃、天才は少し早歩きで
自分の教室へと向かっていた
心做しか彼は少しげっそりとしていた。


「ふっ‥美しさというものは時に苦労を産む‥」


なぜなら今まで天才はファンの女の子に捕まっていたからだ。
何とかファンの女の子をみんな帰路へ
つかせることが出来たのでやっと帰路に
つける、とため息をついた。



「もう夕日が出ているな‥」



窓から空を見れば既に空は半分オレンジ色に染まりかけていた
さて帰らねば、と教室のドアを開けた彼は
そこにいた人物に目を丸くした。



「！‥鈴音？」


そう、そこには窓に背中を預けて椅子に座ったまま
目を閉じて眠っている鈴音の姿があった
寝息を立てる鈴音の手から小説が
床に滑り落ちた。



「‥なるほど、読書しているうちに眠ってしまったのか」



ゆっくりと歩み寄り顔を覗き込む
目の前の彼女は静かに寝息を立てており‥
愛らしい寝顔で眠る彼女を見ると自然に
笑みがこぼれた
そしてこの状況は自分にとって何よりの
チャンスで、ラッキーなのだと喜びを感じた。



「‥こんなに無防備な姿を、想いを寄せている男の前で見せてしまうなんてな‥」
「‥スー‥」
「この状況は、私にとってラッキーなんだぞ‥？何をされるだなんて‥」
「‥(あれ‥？天才の声がする‥)」


天才の声が聞こえて意識を浮上させた
鈴音、
まだ意識を浮上させたばかりで眠気と
眠気ボケの方が勝ち、目を開けられないが
近くに天才がいることを察したのだが‥


「(‥天才の事ばっか考えてたから‥夢見てるのかな‥？)」



夢かどうかが分からず、これは夢であると
思い込みまた眠ろうと目を閉じたまま夢の世界へ飛び立とうとする鈴音の
事なんて知らない天才は頬を赤く染めながら
少し、顔を近づけた。


「‥鈴音‥」



目の前で眠る彼女は、やはり自分にとって
大切で‥手に入れたい存在で‥
そんな彼女がいま自分の目の前で
無防備に眠っているこの状況‥
天才の心に魔が差し始めた。


「‥‥起き、ないだろうな‥？」


小声で呟いて、彼女の手を握る
半分起きかけていることも知らずに‥
天才はそのまま手を握ったままゆっくり、
ゆっくりと鈴音と距離を縮めていく‥
距離はゆっくりと縮まり10cm、5cm‥
3cmまで行った所でピタリと止まり呟いた。


「‥‥これは夢だ、夢だと思ってくれ‥鈴音‥」


夢だ夢だと呟いた後に心の中で謝罪をして更に顔を近づけて‥



天才と鈴音の距離は0になり
二人の唇が静かに重なった。


「‥‥？‥(なに‥？)」


そのまま天才の言葉を聞いていた鈴音は
自分に起こっていることが分からずに
心の中で？マークを大量発生させた。
「夢だ、夢だと思ってくれ」と聞こえた後に
唇に何か柔らかいものが触れた。


「(何が当たってるの‥？マシュマロ‥？)」


にしては弾力があって熱い。
熱いのは唇だけではなく頬もだ‥
この状況が現実か夢か分からないでいる‥
まさか天才にキスをされているだなんて知らない
鈴音はもしかしてこれは夢ではないの
では無いのだろうかと思い始めた。



「(‥これ、夢じゃない‥？)」



眠気と戦いながらも目を開けてみようかと
思い始めたその時、柔らかい感触が無くなった。
一方その頃天才は‥ゆっくりとした動作で自身の唇を鈴音の口から離して、
改めて自分がしてしまった事を自覚して
耳まで赤くさせた。


「‥‥(や、やって‥しまった‥！！)」



寝ている相手にキスをするだなんて
初めてで‥触れた唇を撫でて目を泳がせた。
と、そうしているうちに鈴音の瞼が動いて目を開けることを察した天才は
急いで体を離した。


「‥ん‥」
「はっ！！」


わたわたとしながらも離れると
鈴音を目を擦りながら目を覚ました


「‥天才？」
「あ、あぁおはよう‥」


ぱちくりと目を瞬かせた後に小説を拾い上げた
目を開けるとそこには確かに天才がいたが‥なんか様子がおかしい。



「天才、何してたの？」
「あ？あ、あぁ君が寝ていたから起こそうと思ったんだが‥ちょうど起きたんだな」
「何だ起こしてくれようとしてたの？ありがとうー！」


柔らかい感触はなんだったのか？夢か？
と思いつつも小説をカバンに直して立ち上がる。


「もう夕日が出ちゃってるや、帰らなきゃ‥」
「お‥おく、ろうか？」
「いいの？じゃあ‥お願いしていい？」



天才の申し出に内心嬉しさを噛み締めて
笑顔を浮かべてOKを出した。
対する天才は勝手に鈴音に
キスしてしまったことへの罪悪感やら恥ずかしさやらで顔がまだ赤かった。
その事に鈴音は首を傾げて聞く。


「？天才顔が赤いよ？どうしたの」
「‥夕焼けのせいさ‥」


自分の方を見ながらそう微笑んだ天才に、
鈴音は胸を高鳴らせた。
ああ、やはり自分はこの人が好きなのだと
改めて自覚して、むず痒くなった。




「唇に当たった柔らかいの‥なんだったのかな？」

「今度はきちんと‥交際してからキスするぞ‥その前に‥そろそろ彼女に‥」



この二人が結ばれるのは‥果たして？