第17話
家「白夜、落ち着いたか?」
「うん。ごめんね、硝子さん」
家「構わないさ、そりゃ誰だってショック受けるだろ」
「…思い出したんだ。前にオレが幼児化して悟の記憶無かった時」
家「あぁ、そんなこともあったな」
「あの時、記憶のないオレのことを、それでも優しく、いつもと変わらない感じで接してくれて、守ってくれた。好きでいてくれた。だからオレも悟に同じように接したいって思ったんだ」
家「…そうか。白夜らしいな」
優しく頭を撫でてくれる硝子さん
硝子さんがいてくれて、本当に良かった
家「今回の呪いも、前の時と同じで時間が経てば消えるはずだ。それまでなんとか頑張れ」
「うん、頑張るっ」
ということで、とりあえずオレと悟は自分たちの家へ戻ることにした
五「へぇー、ホントに僕と君で住んでるんだ」
部屋に飾ってあるオレと悟の写真を見ながら呟く悟
五「…ダブルベッド。二人一緒に寝てるんだね」
「あ…えと、もし抵抗あったら、オレは違う場所で寝るから…」
五「あー、ごめん、そういうことじゃないよ。確認してるだけだから。君はいつも通りにしててよ」
「うん…」
オレが幼児化して記憶がない時とは状況が違う
小さかったオレにとって、知らないお兄さんだったとしても悟の存在は安心できるものだった
けど、今はそういう問題ではない
悟はれっきとした成人男性で、オレももう子供ではない
五「小さいころの写真もある。ってことは、けっこう前から一緒にいるってことか」
「…そうだね」
悟を見ていると、くっつきたくてたまらなくなる
ほら、ダメって言われるほどしたくなるあれ。
今の悟にはそう簡単に触れることすらできない
いつもだったら、悟がすぐ抱き付いてくるから、オレからすることなんてほぼ無くて
「…はぁ……体温が恋しい…」
五条悟にぎゅっとしてもらうのが何よりの至福である白夜にとって、いつ呪いが解けるかも分からないこの状況は生き地獄に近い
悟は普段家にいる時は、無下限を解除している
白夜といつでも触れ合えるように解いてる。と前に悟が言っていた
けど、きっと今は警戒して無下限を張っているに違いない
そういう物理的な意味でも、オレは悟に触れられない
「…もうすでに耐えきれなくなってきた。悟人形でも抱き締めてようかな…」
本物に触れないならせめて人形だ
オレは、枕元に常に置いてある悟人形を手に取り、ぎゅっと抱きしめながら座り込む
五「…?どうかしたの?」
「…あ、いや、気にしないで。耐えてるだけだから」
五「耐えてる?何に?」
「…それは聞かないで」
五「うーん。あ、もしかして僕に触れたい、とか?」
…図星だ
五「いいよ。ほら、おいで」
「…からかってる?それとも同情?それならオレ、余計辛いから嫌だ」
五「同情…か。そうかもしれない。でも、正直僕もよく分からない。頭はさ、君のこと知らないのに。体と僕の眼が、君のことを覚えてるって言ってるんだよ」
「……それって、」
五「家に入った瞬間、無下限を解いてた。無意識にね」
「…!」
五「少しずつでいい。君のこと、教えてよ」
…そんな顔、ずるい
オレが断れないって、分かって言ってるんじゃないかと思うほどに
「……五条白夜。18歳。好きな食べ物はフルーツ。嫌いな食べ物は辛いもの。好きな色は透き通った空色。好きな人は、五条悟」
五「……!」
「…っ、なんか、お腹空いたね…!何か作ろっかなー!」
めちゃくちゃ恥ずかしくなって、オレは誤魔化すように冷蔵庫を開ける
「うわ…最近外食多かったから何もない…。あるのは悟と一緒に食べようと思って作っておいたプリンくらいだ…」
五「……」
なぜか無言でオレに近づいてきた悟
「…?どうかし…っ!?」
気付いたら悟の腕の中にいた
なんで抱き締めてるの…?
オレのこと、忘れてるんじゃないの…?
思い出したの…?
とにかく頭がパニックになっているオレ
「…あの、悟…。思い出した…の…?オレのこと」
五「……全然」
「え…じゃあどうして……」
五「……僕もよくわからないんだけど、なんかこう、急にいとおしくなって…あぁ、可愛いな、抱き締めたいなって思っちゃってつい」
からかってる感じじゃないのは分かる
いつもみたいに抱き締め返したい
けど、グッとこらえた
悟がオレのこと、思い出した時に、思いっきり抱き締めてやるためだ
だから、今は我慢
こうして悟のぬくもりを感じられただけで今は十分だ
五(…君って、あったかいね。人間カイロみたい)
(さすがにもう離してもらっていいですか…)
五(えー。抱き心地いいからもうちょっと)
(…そういや、悟、オレの名前一度も呼んでない…。)