第9話
「硝子さん…!」
家「あぁ、白夜。今日はどうした?」
いつも通りに迎えてくれる硝子さん
「あの…ちょっと聞きたいことがあって」
家「ん?」
「えっと…硝子さん、夏油傑っていう人、知ってる…?」
家「…!」
明らかに硝子さんの顔がひきつった
「…硝子さん?」
家「…そうか。白夜はあの時意識不明だったから知らないんだったな」
「え、どういうこと?」
家「そうだな…。初めに言うと、夏油は私と五条のクラスメイトだったんだよ」
「えっ…、硝子さんと悟のクラスメイト!?」
家「あぁ。特に五条とはよく二人で任務に行ったりして、お互い親友なんて思ってるくらいには仲も良かった」
親友…
家「けど、三年になってから夏油は変わっていった。日に日に痩せていって、顔色も悪かった。そんなある日事件が起きた。夏油が任務で行った集落で100人以上の死者が発見されたんだ」
「…まさか」
家「…あぁ。それは全て夏油の仕業だった。そのあと、自分の親さえも殺し、夏油は行方をくらませた。夏油は呪術規定に基づき、呪詛師として処刑対象になった」
「…どうして夏油傑はそんなことを」
家「…非術師を皆殺しにして、呪術師だけの世界を作る。そう夏油は言ってたな」
「そんなの…」
家「意味分かんないよな、ほんと。」
あんなに優しかった傑さんが、そんなことをするなんて想像すらできない
家「そして去年のクリスマスイブだったか。夏油が百鬼夜行って言って、新宿と京都に呪霊を放ったんだ。私たち呪術師は総出で食い止めた。夏油本人は高専で今の二年の子たちと戦った。そして乙骨憂太に負けた夏油は逃げたあと、五条によって処刑された」
「悟が…?」
家「あぁ。そう聞いてる」
そんな…
悟にとって傑さんは親友だった
その親友を殺さなきゃいけないなんて…
顔には出さないだろうけど、きっと悟は言い表せられないほどの苦しみを感じているはずだ
「…ごめんなさい、硝子さん。硝子さんにとっても辛い話をさせてしまって」
家「別に構わないさ。五条はこんな話、白夜にはしないだろうからな」
「………そう、だね」
オレが悟の立場だったら、こんな話、絶対出来ない
オレは硝子さんの所をあとにした
「…傑さんは悟が処刑している。つまり、今日会った傑さんは傑さんじゃないってことだよね」
悟が手加減して傑さんを殺さなかったなんてことはまずない
親友だったならなおさら
「…偽物。やっと合点がいった。オレが感じた違和感はそういうことだったんだ。だとしたら、どうしてオレと昔会ったことを知ってるんだろう。記憶に干渉できる術式か何か…?あー、分からないことだらけだ」
考えれば考えるほど分からない
「…とにかく、あの人が傑さんじゃないなら、このことはまだ誰にも言わないほうがいいよね。あの人が傑さんに成り代わって悪いことをしてるっていう証拠もないし。悟に言って、変に動揺させたくない」
ただ、心にモヤモヤがあるとすればそれは…
「…本物の傑さんも、もうオレの知ってる傑さんじゃなかったということ…」
三年になった傑さんが、非術師を皆殺しにする。と言って大勢の人を殺したことは事実
「…傑さんっ……何があなたをそこまで追いつめてしまったんだよ…」
勝手に溢れる涙
「…悟っ、辛かったよね……っ、泣きたいくらい、辛かったはずだよね…」
でも悟は強いから。
泣かなかったかもしれない。
だからその分オレが…
五「…白夜?」
「…っ!」
悟…
五「どうしたの…そんなに泣いて…。何かあった…?」
悟は優しく問いかける
「ううん、何でもない…。何でもないけど、勝手に涙が出ちゃって…」
五「…変な呪いにでもかかっちゃったかな」
「…はは、そうかも」
五「ほら、これ使って」
そっとハンカチを貸してくれる悟
「…ありがと。ねぇ、悟」
五「ん?」
「…オレは、ずっと悟と一緒にいるからね」
五「…僕だって、白夜から離れるつもりないから」
(…悟、手繋いで帰ろ)
五(あれ?そんなこと言うなんて珍しいね。いつもは恥ずかしいって言うのに)
(…っ、いいの!今日はそういう気分だから!)
五(そ?ならいいけど)