第拾伍話
無「前回の戦いで僕は毒を喰らい、動けなくなりました。呼吸で血の巡りを抑えて毒が回るのを遅らせようとしましたが、僕を助けようとしてくれた少年が殺されかけ、以前の記憶が戻り、強すぎる怒りで感情の収拾がつかなくなりました。その時の心拍数は二百を超えていたと思います。さらには体は燃えるように熱く、体温の数字は三十九度以上になっていたはずです」
し「そんな状態で動けますか?命にも関わりますよ」
確かにしのぶの言うとおりだ
無「そうですね。だからそこがふるいに掛けられる所だと思う。そこで死ぬか死なないかが、恐らく痣が出る者と出ない者の分かれ道です」
あ「心拍数を二百以上に…。体温の方は何故三十九度なのですか?」
無「はい。胡蝶さんの所で治療を受けていた際に、僕は熱を出したんですが、体温計なるもので計ってもらった温度、三十九度が痣が出ていたとされる間の体の熱さと同じでした」
蜜(そうなんだ…)
実「チッ。そんな簡単なことでいいのかよォ」
義「これを簡単と言ってしまえる簡単な頭で羨ましい」
実「何だと?」
義「何も」
「こらこら、ギスギスしない」
全く…
し「では痣の発現が柱の急務となりますね」
行「御意。何とか致します故、お館様には御安心召されるようお伝えくださいませ」
「…あの。疑問があるんですが、痣を発現するにあたって、何か代償などあったりしないのですか?無理やり力を増強するのですから、代償があっても不思議ではありません」
あ「…はい。そのことについて、皆様にお伝えしなければならないことがあります」
蜜「何でしょうか…?」
あ「もうすでに痣が発現してしまった方は選ぶことができません…。痣が発現した方はどなたも例外なく…」
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行「なるほど…。しかしそうなると私は一体どうなるのか…南無三…」
「……」
義「あまね殿も退室されたので失礼する」
義勇はそう言って立ち上がる
「義勇っ…」
実「おい待てェ。失礼すんじゃねぇ。それぞれの今後の立ち回りも決めねぇとならねぇだろうが」
義「七人で話し合うといい。俺には関係ない」
小芭「関係ないとはどういうことだ。貴様には柱としての自覚が足りぬ。それとも何か?自分だけ早々に鍛錬を始めるつもりなのか。会議にも参加せず」
だが義勇は歩きだす
実「テメェ待ちやがれェ!」
し「冨岡さん、理由を説明してください。さすがに言葉が足りませんよ」
義「……。俺はお前たちとは違う」
実「気に食わねぇぜ…前にも同じことを言ったなァ冨岡。俺たちを見下してんのかァ?」
蜜「けっ、喧嘩は駄目だよっ、冷静に…」
実「待ちやがれェ!!」
「止めて実弥っ!!義勇は…っ」
オレが止めようとした時だった
パァンっ!!!!
と行冥が手を叩いた
その音に全員がびっくりした
行「座れ…。話を進める…。一つ提案がある…」
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行冥の提案
それは特別な訓練
その名も"柱稽古"
柱より下の階級の者が柱を順番に巡り、稽古をつけていく
基本的に柱は継子以外に稽古はつけなかった
理由はオレもよく言ってたが、単純に忙しいから
柱は警備担当地区が広大な上に、鬼の情報収集や自身のさらなる剣技向上の為の訓練
その他にもやることが多い
しかし、禰豆子の太陽克服以来、鬼の出没がピタリと止んだ
それが逆に怖いが、そのお陰で柱は夜の警備と日中の訓練にのみ焦点を絞ることができた
「……義勇、ほんとに参加しないの?」
義「…俺は柱じゃない」
「…義勇」
冨岡義勇ただひとり、こうして柱稽古に参加していなかった
義「ここにいていいのか?白夜も柱稽古があるのだろう?」
「オレは最後だから。さすがにまだ誰も来ないよ」
義「…そうか」
どうしたら義勇を説得できるのかな…
義勇は十分柱たりえる存在だ
それを義勇自身が認めていない
「ねぇ義勇、今は鬼が出没しなくて暇でしょ?今だって何もしないでいるだけだしさ。稽古に参加してみんなを鍛えるのもいいんじゃない?」
義「…俺にそんな資格はない」
「そんなこと…」
その時だ
炭「ごめんくださーい、冨岡さーん。こんにちはー。すみませーん」
え?
「…今のって」
外から大きな声で呼び掛けているのは、炭治郎だ
炭「義勇さーん、俺ですー。竈門炭治郎ですー。こんにちはー。じゃあ入りますー」
義(入ります?いや…帰りますだな。聞き間違いだ…)
そして、炭治郎は普通に入ってきた
炭「あ!白夜さんもいらしたんですね!」
「うん…それよりどうしたの?」
すると炭治郎がオレにこっそり教えてくれた
何でも、お館様が炭治郎に手紙を送ったらしい
その内容が、義勇が前を向けるように話をしてやってほしい。というものだったらしく
炭治郎はその言葉を額面通りに受け取り、話しに来たらしい
それから、炭治郎はみんなの稽古の様子をペラペラと話し出した
炭「ていう感じでみんなで稽古してるんですけど」
義「知ってる」
炭「あ!知ってたんですね、良かった。俺あと七日で復帰許可が出るから、稽古つけてもらっていいですか?」
義「つけない」
炭「どうしてですか?じんわり怒っている匂いがするんですけど、何に怒ってるんですか?」
え、義勇怒ってるの?
義「お前が水の呼吸を極めなかったことを怒ってる。お前は水柱にならなければならなかった」
炭「それは申し訳なかったです。でも鱗滝さんとも話したんですけど、使っている呼吸を変えたり新しい呼吸を派生させるのは珍しいことじゃないそうなので。特に水の呼吸は技が基礎に沿ったものだから、派生した呼吸が多いって」
義「そんなことを言ってるんじゃない。水柱が不在の今、一刻も早く誰かが水柱にならなければならない」
「義勇…」
炭「水柱が不在?義勇さんがいるじゃないですか」
義「俺は水柱じゃない」
炭「……」
義「帰れ」
そう言って義勇は立ち去ってしまうが…
「…炭治郎、オレも義勇を前向きにさせたい。だから一緒に勇気付けてほしい」
炭「もちろんですっ!」
(炭治郎、怪我大丈夫?足の骨折、まだ治ってないのに…)
炭(大丈夫です!松葉杖があるので歩けますし!)
(…義勇のために、ありがとう)