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第玖話

あれから鱗滝さんは、行く覚悟ができるまでここにいくらでもいるといい。お前のことは誰にも言わん。
そう言って、オレをここに置いてくれた


「…鱗滝さんは、優しいな」


一見天狗の面をしていて、怖そうな印象だったけど、とても優しい人だ


鱗滝「白夜」

「は、はい!」

鱗滝「お前は他の鬼のように飢餓状態になったりしないのか」


あ、そっか
やっぱりそれは気になるよな


「えっと、実は…オレの飢餓状態は、甘味限定の空腹と言いますか…」

鱗滝「…何を言っている」


まぁそうだよな
普通はそういう反応だよ、うん


「いや、オレも自分自身よく分からないんですが、飢餓状態の時、普通の鬼なら人の血肉を求めますが、その血肉がオレにとっては甘味なんです…」


鱗滝「…そんなことがあるとは驚いた」


「オレもです…。普通の鬼ならありえないことなんですけど、でもその飢餓状態になると甘味を食べたくて仕方なくなるほどで…」

鱗滝「…そうか。だが、それなら安心した。飢餓状態になったとしても人を喰う心配はないということだ」

「はい」


すると鱗滝さんは、出かける準備を始めた


「…?どこかへ行かれるんですか?」

鱗滝「少し、買い物だ。 すぐに戻る」

「はい」


そう言って鱗滝さんは出ていった


「…オレは鱗滝さんに甘えっぱなしだな」


鱗滝さんが紙に書いてくれた住所を眺める


「…鱗滝さんは、この住所に誰が住んでるかは教えてくれなかった。まぁ記憶がないから名前を言われても分からないだろうけど…」


人間の頃のオレとどんな関係だったのかは知りたい



「…覚悟、か」





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鱗滝「白夜、今帰った」

「あ、おかえりなさい」

鱗滝「…刀の手入れをしていたのか」

「はい。することが何もなくて」

鱗滝「そうか」


そう言って鱗滝さんは、包みをほどく

包みの中には、たくさんの甘味が入っていた


「…あっ!」


思わず声が漏れてしまった


「あの…鱗滝さん…もしかしてこれ」

鱗滝「あぁ、お前に買ってきた。好きなだけ食べるといい」

「…!!ありがとう、ございます…!」


買い物って、これを買いに行ってたんだ…


鱗滝「お前は昔から甘味が好きだったが、まさか鬼になっても変わらないとはな」

「え、そうなんですか?」

鱗滝「あぁ」


なるほど…甘味は人間の頃のなごりなのか


「…いただきます。パクっ。ん、美味しい!」

鱗滝「なら良かった」

「…すいません。オレ、鱗滝さんに甘えてばかりで…どうお返ししたらいいのか」

鱗滝「気にするな。子供のころはかなり苦労していたからな。こういう時にうんと甘えればいい」

「…子供の、ころ」

鱗滝「それに、お返しならもうもらっている」

「え?」

鱗滝「お前が死なずにこうしてワシのところに来てくれたことが、ワシにとっては何より嬉しいことだ」

「…鱗滝さん」




ありがとう、ございます…





それから数日後



「…いつまでも鱗滝さんに世話になるのはいけないよな」


いくら弟子といえど、オレは鬼だ
今は良くても、ずっとここに居たらきっと迷惑をかけてしまうだろう


「…大丈夫。鱗滝さんが言うんだから」


そしてオレは外にいる鱗滝さんのもとへ




「鱗滝さん」

鱗滝「…覚悟は、できたようだな」

「…はい。鱗滝さんには本当にお世話になりました」


すると鱗滝さんは懐から手紙を出した


鱗滝「白夜、お前に教えた住所の家主に渡しなさい。今のお前の状況が書かれている」

「はい」

オレが色々と説明しなくてもいいように、書いておいてくれたんだ


鱗滝「…白夜。たとえ鬼になったとしても、お前はずっとワシの大事な弟子だ。いつでも帰ってこい」

「…!」


鱗滝さんはそう言ってオレを抱き締めてくれた


「…はい、はいっ…せ、んせい……」

鱗滝「…!白夜…今、先生と…」

「…え?あれ…オレ、どうして鱗滝さんのこと、先生って…」

なぜか口が勝手に…無意識にそう言っていた



鱗滝「…白夜、ワシにとってお前は息子も同然だ。いつでも頼れ」

「…はいっ」






こうしてオレは、鱗滝さんのもとを去り、教えてもらった場所へ向かった








(…ありがとう、鱗滝さん)
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