第捌話
列車へ近づくと、少年の叫び声が聞こえた
炭「逃げるな卑怯者!!逃げるなァ!!!いつだって鬼殺隊はお前らに有利な夜の闇の中で戦ってるんだ!!逃げるな馬鹿野郎!馬鹿野郎!卑怯者!!」
……この声、どこかで聞いたことがあるような
炭「お前なんかより、煉獄さんの方がずっとすごいんだ!強いんだ!煉獄さんは負けてない!誰も死なせなかった!戦い抜いた!守り抜いた!お前の負けだ!煉獄さんの勝ちだ!うあぁああああ!!!うっ、ううっ…」
少年は泣き崩れた
杏「……もう、そんなに叫ぶんじゃない。腹の傷が開く。君も軽傷じゃないんだ。竈門少年が死んでしまったら、俺の負けになってしまうぞ」
そしてオレは、血だらけの男の前に降り立った
杏「…っ!!!新たな鬼……だが、その姿、…」
炭「……っ!!!?(鬼…!?けど、この匂いは…っ!それにあの狐の面…)」
「…さっきの鬼、上弦の参か…」
まだ会ってなかったな、そういえば
杏「…お前は、お前は…白夜…なのか…?」
血だらけの男が、オレの名前を言った
「…あんた、オレのこと、知ってるの?」
杏「…!そうか…鬼になれば人間の頃の記憶は無くなる…」
「…オレと同じ服着てる…。もしかして、知り合いだったのかな」
杏「…仲間、だ」
…仲間、か
「…そろそろ話すのはやめたほうがいい。死んでしまう」
杏「…!」
「…そっちの少年と、猪の少年も、酷い怪我をしてる」
二人の少年を見る
なぜか二人とも驚いて動けなくなっている様子
オレは片膝をつき、死にかけている彼の怪我を確認
杏「…っ!一体、何を…」
「…動かないで。…致命傷だ。だけど、今ならまだ間に合うかもしれない」
杏「…白夜、まさかお前…」
オレは刀を抜き、あの型の構えをした
「…光の呼吸 陸ノ型 優光の包容」
その瞬間、眩しいほどの光が、辺りを包んだ
杏(…!!白夜が以前使っていた時とは、光の威力が桁違い…!鬼となり、力がさらに強くなったということか…。だが、もうすぐ夜が明けてしまう…)
杏「…白夜、もういい。早く建物の中へ入れ!お前が消えてしまう!」
炭「…!白夜さん!!」
「…話しかけるな。気が散る。それに、お前を見殺しにしたら目覚めが悪いんだよ」
杏「…どういうことだ。白夜、お前は鬼なんだろう。鬼は人を喰うことを目的としているはずだ。なぜ俺を助ける!?」
「…オレはあいにく、人を喰いたいとも、殺したいとも思わないんだよ。人の死を見るほうが、オレは気分が悪くなる」
杏「…白夜、お前は…(まだ、人間の理性が、残っているのか)」
炭「…!煉獄さんの致命傷だった傷が…」
「…よし。致命傷はなんとか塞がったようだな。だけど、早急に医者に見てもらえ。まぁ、この怪我じゃ、この先戦うのはもう無理だろうけど。生きてれば何とかなるもんだ」
杏「…白夜、感謝する。本当にありがとう。だが、早くどこかへ隠れるんだ。消えてしまう」
なぜそんなにオレを心配してくれるんだ、この男は
炭「白夜さん!早く隠れてくださいっ!」
そして、あの少年も
どういう関係だったのかな
思い出せない
「オレは大丈夫だ」
杏「白夜……。お前さえよければ、鬼殺隊の本部に来てもらえないだろうか」
「…悪いけど、それは無理だ。鬼殺隊は鬼を狩る集団のようだし、オレが行ったら拘束されて自由に動けなくなる。それは窮屈すぎて嫌だ」
杏「…白夜」
「そろそろオレは行く。お前、名前は?」
杏「…煉獄杏寿郎だ」
「杏寿郎だな。死ぬなよ、絶対に」
杏「…あぁ」
オレが飛び去ろうとした瞬間
炭「白夜さんっ!」
「っ!」
少年がオレを呼び止める
「…君も、オレの知り合い?」
炭「…はい。俺は白夜さんの弟弟子ですっ!」
「…弟、弟子。名前は?」
炭「竈門炭治郎です」
「…炭治郎。ごめん、やっぱり思い出せない」
炭「…そう、ですか。あの…!煉獄さんを助けてくれて、ありがとうございましたっ…!」
律儀にお礼を言った炭治郎
「…オレがそうしたかっただけだよ。それじゃあ、またどこかで会おう」
オレはその場を離れた
(…オレは一体、どんな人間だったんだろう)