第壱話
「うわっ…すごい雪だ」
鎹カラスから伝令を受け、鬼がいるらしいとのことで、雲取山という山に来ていた
辺り一帯が雪景色だ
こんな状況でも、鬼には関係ないこと
「…なんか、嫌な予感がする」
それは、経験上の勘だ
さらに山奥へ入っていくと、そこにポツンと佇む家があった
だが、明らかに様子がおかしい
「…っ!何てこと…」
そこには、母親らしき女性と、その子供たち数名が血まみれで殺されていた
「…これは、鬼の仕業だな」
もう少し早くここに来ていれば、助けられたかもしれない
「ん?これは、足跡…」
もしかして、生き残りがいたのか…?
「…あとでちゃんと埋葬するから、もう少しだけ待っててな…」
オレはその足跡をたどった
そして、人影が見えた
「…少年と、女の子の鬼か…?それにあれは……」
よく知っている
半分羽織の色が違っているというかなり特徴的な人物
義「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!惨めったらしくうずくまるのはやめろ!そんなことが通用するなら、お前の家族は殺されてない!」
突然、義勇が大声を上げて少年に叫んだ
「…あの義勇が、こんなに感情を出すなんて…」
オレはかなり驚いていた
いや、今の柱たちが見ても絶対驚く
義「奪うか奪われるかの時に主導権を握れない弱者が妹を治す?仇を見つける?笑止千万!!弱者には何の権利も選択肢もない。ことごとく力で強者にねじ伏せられるのみ!妹を治す方法は鬼なら知っているかもしれない。だが、鬼共がお前の意志や願いを尊重してくれると思うなよ。当然、俺もお前を尊重しない。それが現実だ」
そうか…
あの少年は、鬼になった妹を人間に戻そうとしているのか
義「なぜさっきお前は妹に覆い被さった。あんなことで守ったつもりか?なぜ斧を振らなかった。なぜ俺に背中を見せた!そのしくじりで妹を取られている。お前ごと、妹を串刺しにしても良かったんだぞ」
少年はひどく動揺している
当然だ
家族を殺され、妹も鬼になり、義勇によって殺されそうになっているのだから
そして義勇は刀を妹へ刺した
炭「やめろーっ!!」
少年は義勇に向かって石を投げた
当然義勇はその石を弾く
その瞬間に少年が木を利用し回り込みながら義勇へと距離を縮める
斧を振りかぶっているかのように義勇に向かっていく少年だが、義勇によって背中を強打され、そのまま気を失った
だが、少年は斧を持っていない
肝心の斧は上でブンブンと回り、義勇のそばの後ろの木に刺さった
「…木の陰に隠れる直前に石を投げて気をそらし、木の陰に隠れた時に斧を上へ投げた。丸腰であるのを悟られないように振りかぶった体勢で手元を隠す。あの少年、義勇に勝てないと分かってたから、自分が斬られたあとで義勇を倒そうとしたのか…」
なんて子だ…
その間にも、鬼になった妹は義勇の束縛から逃れ、少年のところへ一直線に向かった
義勇やオレはかなりヒヤッとした
なぜなら鬼になりたての時は特に体力を消費し、飢餓状態となっている
たとえ家族だろうと、飢餓状態の鬼は人間を食う
少年も食われるのではと思った
だが…
「…まさか、そんなことがあるのか……?」
妹は、気を失って倒れている少年を庇うように手を広げて守る体勢をとったのだ
ありえない…
だけど、目の前の光景が真実である
さすがの義勇も驚きを隠せない様子
そして鬼の女の子は義勇に威嚇し、向かってきた
義勇は刀をしまい、素早い手刀で女の子を気絶させたのだった
「………」
義勇は、殺さず様子を見ることに決めたようだ
オレはそれを確認して、ようやく義勇のもとへ
「やぁ、義勇」
義「…白夜。なぜあんたがここに」
「カラスからの指令だよ。そしたら義勇がいた」
義「…見ていたのか」
「うん」
義「この鬼だが…」
「分かってるよ。殺さないんでしょ?びっくりだよね。ケガして重度の飢餓状態なのに人間を守ろうとするなんて。これまで色んな鬼を見てきたけど、さすがに初めてだ」
義「…俺は鬼を見逃した。隊律違反になるだろう」
「…それはオレも同罪だ。責任はオレが取るよ。義勇は何も心配しなくていい」
義「なっ…!そんなわけには…!」
「義勇は優しい。他の柱だったら、きっと殺していた。オレはそんな優しい義勇がけっこう好きだから、何とかしてあげたいって思うわけです。それにほら、オレは義勇より立場が上でしょ?義勇一人の責任にするより、オレと義勇の責任にしたほうが柱二人がやったってことで説得力も増して、いくらか寛大に処罰してくれるんじゃないかな」
義「だが…」
「もう、じゃあこう言うよ。オレがもし義勇の立場だったら、きっと同じことをした。要は、ここに来たのが早いか遅いかの話」
義「…すまない。世話をかける」
「いいよー。久しぶりに義勇に会えて嬉しいし!色々大変だろうけど頑張って」
義「あぁ」
相変わらず口数少ないなぁ
まぁ、そんな義勇も義勇らしくていいんだけど
「それで?この少年、どうするつもりなの?」
義「こいつは、妹を人間に治す方法を探すと言っている。それを知っている可能性があるとすれば鬼だ。鬼と対峙するためには鬼殺隊に入らなければならない。だから」
「…先生に、育ててもらおうってわけか。いいんじゃない?ってことは、またオレの兄弟弟子が増えるんだね!嬉しいことだ!」
義「まだこいつが鬼殺隊に入れると決まったわけではないが、あの人に頼むよりほかにないと判断した」
「そっか。やっぱり義勇は優しいな」
柱の皆は、義勇があまりに口数が少なく無表情で何を考えているのか分からないと、義勇と一線置いているようだが、オレはそうは思わない
だって、こんなに優しいんだから
義「白夜は、これからどうするんだ?」
「んー、もう鬼はいないみたいだし、この子たちの家族を埋葬して、それからはカラスの伝令待ちかなー」
義「…そうか」
「義勇、今日は会えて良かったよ。また会えるといいな」
義「…あぁ」
義勇はこの少年が目覚めた時に先生のところへ向かうよう言わなければならないとのことで、しばらく待つらしい
「それじゃあ義勇。オレは行くよ。ケガだけは気をつけて」
義「白夜もな」
「ありがとう」
オレはあの家へ向かった
「…待たせてごめん。今、埋葬してあげるから」
すると、カラスがやってきた
烏『伝令!伝令!白夜、働キスギ!!シバシ休息セヨ!休息セヨ!』
「…は?休息?ってことは、お館様、あの鬼の女の子、容認してくれたんだ」
良かった…
ありがとう、お館様
「…しばらく休息かぁ。どうするかなー。あ、いいこと思いついた」
(先生、元気かなー)