第捌話
「…ん、」
目を覚ますと、オレは布団に寝かされていた
黒「目が覚めたか」
そばにいたのは、目が6つある、刀を持った鬼
「…あんたは」
黒「名乗っていなかったな。私は上弦の壱、黒死牟。お前は鬼となったのだ…自分の名は分かるか」
「…オレは、白夜」
黒「そうだ。私はお前が目を覚ますまで見ているように仰せつかった。もうすぐあの方が来られる」
その言葉通り、すぐに姿を現した鬼舞辻無惨
無「起きたか。やはり鬼となった姿は格段に美しい。白夜、お前は私にとって特別な存在だ。その証として、お前には『上弦の零』を授ける。目を見てみるといい」
近くにあった鏡で、自分自身を見た
「…これは」
オレの目には、上弦 零 の文字が刻まれていた
無「白夜、なぜかお前には私の呪いが効かないようだ。さすがは特別なだけある」
「…オレは、あんたの命令はきかない」
無「構わぬ。白夜、お前は存在自体が尊いのだ。鬼となり、こうして生きていさえすれば、私は満足なのだ」
「……なら、オレは自由に行動させてもらう。オレは人を喰わないし、殺さない。オレに歯向かう鬼がいれば斬る。それでもお前は構わないのか」
無「好きにしろ。どっちみち、白夜に手を出そうなどとするやつは私が殺す」
……こいつ、変なやつだな
そんなにオレを甘やかして、他の鬼に示しがつくのか?
まぁ、オレにとっては好都合だからいいんだけど
「…分かった。オレはもう行く。…そこの、楽器を持った鬼」
鳴「…鳴女です」
「鳴女、ここから出してくれ」
鳴「…かしこまりました、上弦の零様」
そしてオレは、地上へと下りた
「……ここは、空き家の中。今は昼だから、日を避けたのか」
……日の光
なぜだろう。オレは鬼なのに、全く嫌な感じがしない
太陽の光を浴びれば、鬼は消滅する
本能的に分かっているのに、足は外へ向かっていた
「……っ」
手くらいなら。
そう思って外へ出した
「……あれ」
消滅、しない…?
不思議に思い、外に出たのだが
「…消滅、してない。オレは、太陽の光では死ねない…?」
なぜだ
いくら考えても分からないので、とりあえず自分の鬼の目を隠すものがないか、自分の持ち物を探ると
「…これは、狐の、面……」
どこか見覚えがあるような気がするのに、思い出せない
「…人間の時の記憶、思い出せない……」
だけど、これだけは分かる
この面は、オレにとってとても大切なものだということだ
オレはそっと、その面を顔に着けた
「…なんとなくだけど、懐かしい感じがする」
これなら、日中も外を歩けそうだ
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どのくらい移動したのか
気が付けば夜になり、もうすぐ日が出そうになっていた
「…あれは、なんだ?」
遠くに見える、黒い物体
「…列車、か?鬼と人間の気配がする…」
人間が鬼に襲われているのでは
そう思ったオレは急いで列車へ向かった
(…どうしてだろう。オレは鬼なのに、人間を助けたくなる。人間の死を見るのが、この上なく嫌いだ…)