第参話
産屋敷「白夜、少し落ち着こうか」
「…はい」
熱くなってしまったな…
産屋敷「実弥の言うとおり、確かに人を襲わないという保証ができない。証明ができない。ただ、人を襲うということもまた、証明ができない」
実「…!!」
産屋敷「禰豆子が二年以上もの間、人を喰わずにいるという事実があり、禰豆子のために四人の者の命が懸けられている。これを否定するためには、否定する側もそれ以上のものを差し出さなければならない。白夜が言ってたことは、そういうことだよ」
実「……っ」
杏「…むぅ!」
産屋敷「それに炭治郎は鬼舞辻と遭遇している。それに、白夜もね」
お館様の言葉に柱たちが驚愕の表情を浮かべた
そして、柱数名がオレと炭治郎に畳み掛けるように話しかける
能力だとか、何をしていたのだとか、根城は突き止めたのかなど
無理もない
今まで柱ですら誰も接触したことがなかったのだから
その時、お館様が人差し指を口に当てた
静かに。という素振りだ
その姿に、彼らは一瞬で静かになった
産屋敷「鬼舞辻はね。炭治郎と白夜に向けて追っ手を放っているんだよ。その理由は単なる口封じかもしれないが、私は初めて鬼舞辻が見せた尻尾を掴んで離したくない。恐らくは禰豆子にも鬼舞辻にとって予想外の何かが起きているのだと思うんだ。分かってくれるかな?」
お館様…さすがだ…
実「わかりませんお館様。人間ならば生かしておいてもいいが鬼は駄目です。承知できない」
そう言うと、実弥は刀を抜き、自分の腕に傷をつけた
実「お館様…!証明しますよ俺が。鬼というものの醜さを!」
産屋敷「実弥…」
「……」
実「おい鬼!飯の時間だぞ、食らいつけ!!」
実弥は傷から出ている血を、禰豆子が入っている箱へ落とした
炭「…!!!」
小芭「不死川。日向では駄目だ。日陰に行かねば鬼は出てこない」
実「お館様、失礼仕る」
その瞬間、実弥は禰豆子の入っている箱を持ち、屋敷の日陰へと移動した
炭「禰豆子ォ!!やめろーーっ!」
炭治郎が動こうとした時、小芭内が炭治郎の背中に肘を打つ
「っ!!やめろ小芭内!ケガしてんだぞ!?」
その間にも実弥は箱ごと刀を刺す
炭(禰豆子!!)
実「出てこい鬼!お前の大好きな人間の血だ!!」
実弥が無理やり箱の扉を開けた
そして、すっと禰豆子が出てきた
禰豆子の表情は耐えているような、とても苦しそうな
しのぶ「伊黒さん、強く押さえすぎです。少しゆるめてください」
小芭「動こうとするから押さえているだけだが?」
しのぶ「…竈門君。肺を圧迫されている状態で呼吸を使うと血管が破裂しますよ」
天「血管が破裂!!いいな、響き派手で!よし行け破裂しろ!」
「…おい天元」
天「そ、そんな怖い顔するなよ白夜…せっかくの美人が台無しだぜ」
禰豆子はその間も、目の前に血を出され続け、苦しいはずなのに耐えている
炭治郎は押さえられているにもかかわらず、もがく
しのぶ「竈門君!」
「炭治郎…!」
そして縛られていた縄を自力でちぎった
再び押さえつけようとした小芭内だったが
「…いい加減にしろよ、小芭内」
義「……」
押さえつけようとした手を、オレと義勇が掴む
炭「禰豆子!!」
禰「!!」
禰豆子は炭治郎に気づいた様子で
禰(人は守り、助けるもの。傷つけない。絶対に傷つけない)
そして、禰豆子はプイッ!と実弥に対してそっぽを向いたのだった
「…禰豆子、よく耐えた…」
産屋敷「どうしたのかな?」
『鬼の女の子はそっぽ向きました。不死川様に三度刺されていましたが、目の前に血塗られた腕を突き出されても我慢して噛まなかったです』
産屋敷「ではこれで、禰豆子が人を襲わない証明が出来たね」
実「!!」
炭「!!」
産屋敷「炭治郎、それでもまだ禰豆子のことを快く思わない者もいるだろう」
炭治郎はすぐにお館様に頭を下げた
産屋敷「証明しなければならない。これから炭治郎と禰豆子が鬼殺隊として戦えること、役に立てること。十二鬼月を倒しておいで。そうしたら、皆に認められる。炭治郎の言葉の重みが変わってくる」
炭「俺は…俺と禰豆子は鬼舞辻無惨を倒します!俺と禰豆子が必ず!悲しみの連鎖を断ち切る刃を振るう!」
炭治郎…
産屋敷「今の炭治郎にはできないから、まず十二鬼月を一人倒そうね」
お館様は優しくそう言った
炭治郎は顔を真っ赤にして、返事を返す
可愛いな、炭治郎
産屋敷「鬼殺隊の柱たちは当然抜きん出た才能がある。血を吐くような鍛練で自らを叩き上げて死線をくぐり、十二鬼月をも倒している。だからこそ柱は尊敬され優遇されるんだよ。炭治郎も口の利き方には気を付けるように」
炭「は…はい」
産屋敷「それから実弥、小芭内。あまり下の子に意地悪しないこと」
小芭「……御意。」
実「御意…」
産屋敷「炭治郎の話はこれで終わり。下がっていいよ。そろそろ柱合会議を始めようか」
しのぶ「でしたら竈門君は私の屋敷でお預かり致しましょう」
しのぶ、ものすごい笑顔だ
炭「えっ?」
しのぶ「はい、連れて行ってください!」
その合図とともに、隠が炭治郎をものすごい勢いでかかえる
産屋敷「では柱合会議を…」
炭「ちょっと待って下さい!その傷だらけの人に頭突きさせてもらいたいです絶対に!」
隠「黙れ、黙っとけ!」
炭「禰豆子を刺した分だけ絶対に!」
すると、無一郎が足元にあった小石を炭治郎に放つ
無「お館様のお話を遮ったら駄目だよ」
隠「もっ、申し訳ございませんお館様、時透様」
無「早く下がって」
隠「はひっ…はいぃ!!」
産屋敷「炭治郎、珠世さんによろしく」
そうして炭治郎は隠によって、しのぶの屋敷へと連れて行かれたのだった
(…良かった。炭治郎も禰豆子もおとがめなくて)