百の声と期限切れ
収録終わり、オレはRe:valeの楽屋に来ていた
来ないほうが良かったのかもしれないけど、どうしても百が心配だった
百「あー。あーあー。あー!あーーー!!」
千「モモ…」
「………」
百「な?聞こえただろ?声は出るんだ。大声だって出せる。なのにな?歌おうとすると、喉の奥が塞がったみたいになって声が出ないんだ。なぁ、なんでかな?」
千「大丈夫だ。病院に行けば治る」
優しく千が答える
百「咽喉科に行けばいい?でも、話す時は声が出るんだよ」
千「心療内科にも…」
百「なんで?楽しいのに!何も悩んでなんかないよ!ほら、変顔!あはは、ウケた?ねぇ、ハクも見て!」
百…っ
こんな無理に笑う百、見てるの辛いよっ…
千「念のためだ」
百「見て!リラックスだって出来る!ほら、だらん。体の力全部抜いちゃってる」
千「モモ」
「百…」
百「…ごめん。オレのせいで、迷惑かけて…」
千「大丈夫だ」
百「…どうしよう。このまま歌えなかったら…」
千「君は大丈夫だ。僕を信じろ」
「百、千の言うとおりだよ。大丈夫。きっと歌えるようになる」
百「ユキ…ハク…」
千「ああ」
「うん」
千「ハクヤ、明日仕事ある?時間空いてるなら、モモと一緒に病院行ってくれないかな。僕は明日も仕事があって行けないんだ」
「もちろんそのつもりだよ。仕事は夜からだし。オレの通ってる病院、いい所だから紹介するよ」
百「…ありがと、ハク」
こんな不安定な百を、一人で病院に行かせない
次の日
オレは百と一緒に通い慣れた病院に来ていた
「百、少しは落ち着いた?」
百「うん。ハクが一緒だからかな。一人だったら、不安でどうにかなりそうだった」
良かった
昨日よりは元気そう
百「…ハク」
病院の入り口で、百は止まった
「ん?どうしたの?」
百「…ごめん。ちょっとだけでいいから、ハクの手、握ってもいい…?」
「いいよ、ほら」
オレは百に手を差し出す
その手を百は握り返す
百「…ハクの手、あったかい」
「懐かしいなぁ、こういうの。ほら、まだお互いデビューして一年目の頃、オレたち二人とも緊張してガチガチだった時さ」
百「覚えてる覚えてる。こうやって手を握り合うと、緊張がマシになって落ち着けたんだよね」
「そうそう。今はさすがに握り合うことも無くなってたけど、またオレの手が役に立てて良かった」
百の不安が、少しでも無くなりますように
百「よし。ありがと、ハク。もう大丈夫」
「そっか。じゃあ行こう」
百「うん」
オレと百は病院に入り、まずは咽喉科へ
百「……特に異常なし、だって」
「…そっか。じゃあ次、心療内科に行こう。オレが通ってる先生だから、安心して大丈夫だよ」
百「そういえばハク、例の発作はもう大丈夫なの?」
「あー…まだたまに起きるんだ」
百「そうなんだ…オレに出来ることがあったら、何でも言って?ハクのためなら、なんだってするから」
「…ありがとう、百。でも、今はオレのことより、自分のことを考えて?」
百「…あはは、はーい」
そして、見慣れた心療内科の風景が広がる
「こんにちは、先生」
先生「あれ?ハクヤ君。まだ診療日までは時間があるけど何かあった?」
「いえ、今日はオレじゃなくて…」
百「は、はじめまして…!Re:valeの、百、です」
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先生「…色々聞かせてもらって、調べさせてもらったけど…歌おうとすると声が出なくなるのは、精神的なものが原因だろうね」
百「…オレの、心の問題ってことですか…?」
先生「そういうことだね。百君に、歌えなくなるほどの心の不安みたいなものが、邪魔をしているんだ。歌えるようになるには、その原因を取り除くことが一番だよ」
…原因を、取り除く
「…百、不安なことは、五年で期限切れになっちゃうってことで合ってる…?」
百「……うん、そうだね」
「…それ以外は、ない?」
百「……」
「…百、オレは百の話、なんだって聞くよ。何時間でもずーっと」
百「あ…あはは、何時間は長いよさすがに。でも、ありがと。ハクは、優しいなぁ」
優しい、か…
それは、百だからだよ
百「…ユキってさ。オレより、元相方のほうが大事なんだ」
「…え、そんなこと……」
あんなに百のこと、心配してたのに……
なのにどうして、そう思うの…?
(…百。そんな悲しい顔しないでっ…)