真実と借り
万「ハクヤくんがあんなふうに怒るなんて、初めて見ましたよ」
紡「え、大神さんも初めてなんですか?」
万「はい。ハクヤくん、いつも笑顔だし、優しいから。でもあの説教は、ハクヤくんがアイドリッシュセブンのこと、気に入ってるからなんですよね」
「…万理さん、恥ずかしいから。まぁ、そうだけど」
紡「ふふ」
「それより、この頭の包帯、どうにかならないのかな。目立つし…」
万「ダメだよ。先生からもきつく言われてるんだから。取っちゃダメ」
「えー…」
ピンポーン
紡「私、出てきます!」
紡ちゃんが玄関へ
こんな夜に誰だろ?
オレも気になって玄関へ
紡「はい。お待たせしました」
楽「どうも」
紡「八乙女…じゃなかった、そば屋さんですよね?新しいメニューですか?」
楽「そば屋じゃねぇよ」
紡「え!?本物!?」
楽「ちょっといいか。すぐに済む」
「ねぇ紡ちゃん。誰だったのー?って、あれ、楽?」
楽「ハクヤさん!?その包帯…」
あ、ヤバっ…!!
楽「この間の収録。お休みでしたよね?その包帯と、何か関係あるんですか?」
「いや、これはその…」
楽「…色々聞きたいこともあるんで、彼女と一緒に来てもらえませんか」
「え…」
後輩を無下にもできず、オレは紡と一緒に楽に連れ出された
楽「悪いな、連れ出して」
紡「いえ。あの…TRIGGERの八乙女楽さん、ですか?」
楽「こんないい男、他にいないだろ」
確かに楽はカッコいいけど、自分で言えるって、なかなかすごいな…
楽「あんたの親父のことで、聞きたいことがあるんだ」
紡「お父さん…。社長のことですか?」
楽「あぁ。俺の親父と知り合いみたいだった」
紡「八乙女社長と…」
あの二人が、知り合い…?
楽「知ってるかもしんねぇけど、俺の両親、離婚しててさ。おふくろはずっと言ってたんだ。親父は他に愛してる女がいる。浮気でもしてたんだろうなって、思ってたんだけど。あんたの親父と言い争って、その中で言ってたんだ。自分のほうが結を幸せにできた。結って、あんたのおふくろさんか?」
紡「はい…。小さい頃に、亡くなってしまいましたが…」
楽「そうか…」
紡「大丈夫ですか…?八乙女さん…」
楽「楽でいい」
紡「そ、そんなわけには…」
楽「なんで」
紡「…が、楽さん……」
「………」
オレは一体何を見せられてるんだ
いや、オレはまだ関係ないっぽいから静かに聞いてるけども
オレは空気か何かかな?
楽「ん。…この前、ありがとな。オレたちの穴埋めてくれて。ハクヤさんも」
紡「いえ、そんな…」
「ま、こういう時はお互い様だろ?」
助け合いは大事だからね
楽「あんたらが羨ましい…。自由で、楽しそうで…」
紡「羨ましいなんて…。みんなはいつもTRIGGERを目標にしてます」
楽「あぁ。新曲も、完璧に歌ってくれたんだってな」
「……」
紡「はい。元々みんな、大好きな曲でしたから。ハクヤさんが作詞してくれて…。沖縄に行く前に、振りも完璧にして…」
「っ…!バカ、紡ちゃんっ…!」
楽「…ハクヤさんが、作詞…?沖縄…?」
あぁ…話さないでいるつもりだったんだけどな…
紡「あ……」
紡ちゃん、しまった…って顔してる
楽「沖縄で会ったのは、俺たちの曲が出る前だろ?その前から、なんで知ってるんだ?それに、ハクヤさんが作詞って…」
紡「いえ、その、それは…」
楽「天も妙なこと言ってた。本当に嬉しいのかって…」
紡「な、なんでもありません。私の勘違いです」
なんて分かりやすい誤魔化し方!
楽「言ってくれ!何かあったんじゃないのか!」
紡「…っ」
楽「ハクヤさんも、知ってるんですよね!?言ってください!」
「楽…」
その時だ
陸「止めろよ、嫌がってるだろ!」
「陸…」
紡「り、陸さん…!」
陸「マネージャー、大丈夫?…って、八乙女楽…!?」
え、今気づいた!?
楽「邪魔するな。俺は紡とハクヤさんと話してたんだ」
陸「呼び捨てっ…、マネージャー困ってるだろ」
紡「私は大丈夫ですから!」
あぁ…話がややこしくなりそう…
楽「なら、お前が答えろ。七瀬陸。どうしてあの曲を、七人、いや八人で完璧に歌えたんだ」
陸「……。」
陸…
楽「おまえが言わないのなら、紡から聞く」
陸「……盗まれたんだ」
(この状況じゃ、言うまで返してくれなさそうだもんな…仕方ない)