ロビンのお茶会【館長さん作】
喫茶店の一角が賑々しく華やいでいる。例えるなら駒鳥のお茶会、瑞々しい白磁の肌を桃色に染めて、囀る言葉は硝子細工のように輝いていた。
今日は待ちに待った休日。窓際のボックス席を選んだ彼女達は、往来の人々が思わず視線を奪われるのにも気づかないほど、お喋りに熱を入れている。よく磨かれた硝子の窓を右手に座った葵は、ロイヤルミルクティーを一口啜り、ほうと溜息をつく。彼女の隣では真緋瑠が、今日纏っている洋服のこだわりを熱弁していた。それを対面で聞く夕月は、時折コールドドリンクを口に含みつつ、明るく相槌を打っている。
先程から一方的に真緋瑠が捲くし立てているように見えるが、一貫して聞いているとそうでない事はすぐに分かった。発言の量こそ両者で差があるものの、節目節目で真緋瑠が夕月に水を向けるので、発言の機会は平等になっているのである。例えば、真緋瑠が目ざとく夕月のシャツに赤い薔薇のプリントを見つければ、自らもワンピースの胸に飾った白い薔薇のコサージュを指して共通点を話題にあげる、といった具合だった。この二人だけに限らず、傍らの葵もまた、身につける洋服に関して並々ならぬこだわりと美学を持っている。だからこそ、心から気に入ったものしか持たないし、その服の美しさと自分がつりあうよう努力を怠らないのである。そして、そのプライドを三人が共通して持っていると知っているからこそ、こうして一時間でも二時間でも語らう事ができるのだ。
「――もちろん、葵さんが今日着ているお洋服だって!」
突然話を振られドキリとしたのも束の間、カップを持っていない方の手をしっかと真緋瑠に取られると、反射的に身を引いてしまう。が、そもそも右側に窓、左は真緋瑠と挟まれて逃げ場はない。結局僅かに身じろぐだけで終わってしまったため、そんな些事を気に留めぬ純白の少女は一層その瞳を輝かせて葵を見つめた。食い入るよう、とは正にこの事を言うのだろう。瞳の奥底に潜む色はあまりに深く、底が知れない。
「全体が落ち着いて纏まっているからこそ、ヘッドドレスを飾るいくつもの薔薇が際立つのですわ。私も薔薇のコサージュを選びましたの。今日もセルフィドコーデで参りましたし、偶然にもお揃いだなんて!」
「え、ええ……真緋瑠さんだってよくお似合いでしてよ。ただ、その、もうちょっと離れて下さった方がお洋服のトータルコーデが見えて良いと思いますの……」
「葵さん……! 葵さんが私のコーデを見て下さるなんて……!」
真緋瑠の服は今日も勿論、くまなく白で固めたロリィタファッションである。視線を逸らしながら、葵は中身を零さぬよう気をつけてカップをソーサーの上に戻した。
白を苦手とする葵は視界に入れるのも辛いものがあったが、ただ自らの好み一つで他人が心底愛しているものを貶すのは無礼であるとも心得ている。そのためやんわりと告げた距離をとるための口実も、表現が柔らかかったためか適切には伝わらなかったようだ。真緋瑠は一際黄色い歓声を上げると、いよいよ感極まった挙動で葵を抱きしめたのだった。黒と白にはっきりと分かれた色の如く対照的なやり取りを見守っていた夕月は、ふと小さく微笑んで呟く。
「ホントに、見てて飽きないよなあー。葵と真緋瑠ってさ」
微笑む彼女の表情は、心なしか何時もより大人びて見える。
そんな三人が囲む机上には、めいめいが頼んだ飲み物の他に、勉強道具が散乱していた。開きっぱなしの教科書、書きかけのノート、芯が出たままのシャープペンシル。
駒鳥の歓談はまだまだ続く。
そう、来週から定期テストが始まる現実など、茶会の外に置き去りのまま。
今日は待ちに待った休日。窓際のボックス席を選んだ彼女達は、往来の人々が思わず視線を奪われるのにも気づかないほど、お喋りに熱を入れている。よく磨かれた硝子の窓を右手に座った葵は、ロイヤルミルクティーを一口啜り、ほうと溜息をつく。彼女の隣では真緋瑠が、今日纏っている洋服のこだわりを熱弁していた。それを対面で聞く夕月は、時折コールドドリンクを口に含みつつ、明るく相槌を打っている。
先程から一方的に真緋瑠が捲くし立てているように見えるが、一貫して聞いているとそうでない事はすぐに分かった。発言の量こそ両者で差があるものの、節目節目で真緋瑠が夕月に水を向けるので、発言の機会は平等になっているのである。例えば、真緋瑠が目ざとく夕月のシャツに赤い薔薇のプリントを見つければ、自らもワンピースの胸に飾った白い薔薇のコサージュを指して共通点を話題にあげる、といった具合だった。この二人だけに限らず、傍らの葵もまた、身につける洋服に関して並々ならぬこだわりと美学を持っている。だからこそ、心から気に入ったものしか持たないし、その服の美しさと自分がつりあうよう努力を怠らないのである。そして、そのプライドを三人が共通して持っていると知っているからこそ、こうして一時間でも二時間でも語らう事ができるのだ。
「――もちろん、葵さんが今日着ているお洋服だって!」
突然話を振られドキリとしたのも束の間、カップを持っていない方の手をしっかと真緋瑠に取られると、反射的に身を引いてしまう。が、そもそも右側に窓、左は真緋瑠と挟まれて逃げ場はない。結局僅かに身じろぐだけで終わってしまったため、そんな些事を気に留めぬ純白の少女は一層その瞳を輝かせて葵を見つめた。食い入るよう、とは正にこの事を言うのだろう。瞳の奥底に潜む色はあまりに深く、底が知れない。
「全体が落ち着いて纏まっているからこそ、ヘッドドレスを飾るいくつもの薔薇が際立つのですわ。私も薔薇のコサージュを選びましたの。今日もセルフィドコーデで参りましたし、偶然にもお揃いだなんて!」
「え、ええ……真緋瑠さんだってよくお似合いでしてよ。ただ、その、もうちょっと離れて下さった方がお洋服のトータルコーデが見えて良いと思いますの……」
「葵さん……! 葵さんが私のコーデを見て下さるなんて……!」
真緋瑠の服は今日も勿論、くまなく白で固めたロリィタファッションである。視線を逸らしながら、葵は中身を零さぬよう気をつけてカップをソーサーの上に戻した。
白を苦手とする葵は視界に入れるのも辛いものがあったが、ただ自らの好み一つで他人が心底愛しているものを貶すのは無礼であるとも心得ている。そのためやんわりと告げた距離をとるための口実も、表現が柔らかかったためか適切には伝わらなかったようだ。真緋瑠は一際黄色い歓声を上げると、いよいよ感極まった挙動で葵を抱きしめたのだった。黒と白にはっきりと分かれた色の如く対照的なやり取りを見守っていた夕月は、ふと小さく微笑んで呟く。
「ホントに、見てて飽きないよなあー。葵と真緋瑠ってさ」
微笑む彼女の表情は、心なしか何時もより大人びて見える。
そんな三人が囲む机上には、めいめいが頼んだ飲み物の他に、勉強道具が散乱していた。開きっぱなしの教科書、書きかけのノート、芯が出たままのシャープペンシル。
駒鳥の歓談はまだまだ続く。
そう、来週から定期テストが始まる現実など、茶会の外に置き去りのまま。