忠誠の在り処【steraさん作】
「どうしました? 私の顔に何かついていますか? スミレ様?」
(「そんな目で見つめられても、気分がすぐれなくなるだけですが? 年増に興味はありませんよ?」)
アナナスは、そう言って訝しげにスミレを見る。
「いや、お前って、なんで魔王に付き従ってるのかなぁって……」
「どういう意味です?」
「う~ん、お前って強いだろ? 力を試してやる! とかそういう風には思わないのかなって思って。ほら、本だとよくあるだろ、家臣の裏切り」
「下衆な本の読みすぎですよ。もうすこし、まともな教養を深める本を読むことをお勧めします。後ほど、用意させましょう」
「いや、要らないって、勘弁してくれ」
「それと、スミレ様」
「なんだ~?」
「……私の忠誠を疑うような発言は、今後一切なさらないでください」
アナナスの笑顔は普段どおり人当たりのいい朗らかなソレだったが……どこか剣呑な雰囲気を察したスミレは謝った。
「あ、いや……悪かったな」
『あぁ、あれが吸血鬼の……』
『いい? あんな子と関わっちゃいけませんよ。何をされるかわかりませんからね!』
『辛うじて貴族の体面を保っただけだろ? 王族から、追放された身じゃないか? よく顔を出せるよな?』
『油断すると、血を吸われて何もかも奪われるぞ。関わっちゃいけない』
大人達の囁く声は、いつだって私の耳に届き、幼い私は、常に孤独だった。
『いいですか? 貴方には王家の血が流れているのです。それに恥じぬ行動をしてちょうだい』
『そんなことでどうするのです? 貴方は貴族なのですよ?』
『そんな顔をするものではない、常に余裕を持った笑顔で接するんだ。それが由緒正しい血を受け継ぐものに相応しい振る舞いというものだ』
そして、私は、生まれた時から『血』に縛られ生きていた。
そこは、誰もいない川縁の、ひっそりと野草だけが咲く涼やかな場所。
流れる水面を眺めながら、独り暗い空を見つめていた。
魔界の空は、重苦しく張りつめている。
右手にそびえる魔王城、その城壁を眺め、また1つ溜息をついた。
「このままじゃ、どんどん離されていく……」
魔法学科も戦闘実技も、周りの生徒に比べ、自分だけが取り残されるようになっていた。
与えられる課題がクリア出来ない。
理由は分かっている、解決方法も……ただ、それは解決してはいけない悩みだった。
誰に相談できる内容でもない。
だからこうして一人、隠れるように川縁で過ごす。
『ガサガサガサ』
不意に、藪をかき分ける物音がした。
それと同時に、黒髪の、頭に小さな二本の角を生やした子供が現れる。
「どうしたの?」
(「自分より、少し年下かな?」)
「驚いた、こんなところに人がいたのか! ここに、なにか面白いものがあるのか?」
「いや、ないよ。花なら咲いてるけど」
「花か。余は花は好きだぞ、綺麗だからな」
ニコッと、屈託なく笑う黒髪の子供。
偉そうな話し方だが……どこか大貴族の子息だろうか?
「君は、どうしてこんなところに?」
「勉強が嫌になって、逃げてきたのだ」
「そっか、ぼくと同じだね」
アナナスは、そう言って微笑む。
すると、黒髪の子供も嬉しそうに笑う。
「そうだ、クッキーを持って来たのだ。一緒に食べよう」
「うん」
(「そんな目で見つめられても、気分がすぐれなくなるだけですが? 年増に興味はありませんよ?」)
アナナスは、そう言って訝しげにスミレを見る。
「いや、お前って、なんで魔王に付き従ってるのかなぁって……」
「どういう意味です?」
「う~ん、お前って強いだろ? 力を試してやる! とかそういう風には思わないのかなって思って。ほら、本だとよくあるだろ、家臣の裏切り」
「下衆な本の読みすぎですよ。もうすこし、まともな教養を深める本を読むことをお勧めします。後ほど、用意させましょう」
「いや、要らないって、勘弁してくれ」
「それと、スミレ様」
「なんだ~?」
「……私の忠誠を疑うような発言は、今後一切なさらないでください」
アナナスの笑顔は普段どおり人当たりのいい朗らかなソレだったが……どこか剣呑な雰囲気を察したスミレは謝った。
「あ、いや……悪かったな」
『あぁ、あれが吸血鬼の……』
『いい? あんな子と関わっちゃいけませんよ。何をされるかわかりませんからね!』
『辛うじて貴族の体面を保っただけだろ? 王族から、追放された身じゃないか? よく顔を出せるよな?』
『油断すると、血を吸われて何もかも奪われるぞ。関わっちゃいけない』
大人達の囁く声は、いつだって私の耳に届き、幼い私は、常に孤独だった。
『いいですか? 貴方には王家の血が流れているのです。それに恥じぬ行動をしてちょうだい』
『そんなことでどうするのです? 貴方は貴族なのですよ?』
『そんな顔をするものではない、常に余裕を持った笑顔で接するんだ。それが由緒正しい血を受け継ぐものに相応しい振る舞いというものだ』
そして、私は、生まれた時から『血』に縛られ生きていた。
そこは、誰もいない川縁の、ひっそりと野草だけが咲く涼やかな場所。
流れる水面を眺めながら、独り暗い空を見つめていた。
魔界の空は、重苦しく張りつめている。
右手にそびえる魔王城、その城壁を眺め、また1つ溜息をついた。
「このままじゃ、どんどん離されていく……」
魔法学科も戦闘実技も、周りの生徒に比べ、自分だけが取り残されるようになっていた。
与えられる課題がクリア出来ない。
理由は分かっている、解決方法も……ただ、それは解決してはいけない悩みだった。
誰に相談できる内容でもない。
だからこうして一人、隠れるように川縁で過ごす。
『ガサガサガサ』
不意に、藪をかき分ける物音がした。
それと同時に、黒髪の、頭に小さな二本の角を生やした子供が現れる。
「どうしたの?」
(「自分より、少し年下かな?」)
「驚いた、こんなところに人がいたのか! ここに、なにか面白いものがあるのか?」
「いや、ないよ。花なら咲いてるけど」
「花か。余は花は好きだぞ、綺麗だからな」
ニコッと、屈託なく笑う黒髪の子供。
偉そうな話し方だが……どこか大貴族の子息だろうか?
「君は、どうしてこんなところに?」
「勉強が嫌になって、逃げてきたのだ」
「そっか、ぼくと同じだね」
アナナスは、そう言って微笑む。
すると、黒髪の子供も嬉しそうに笑う。
「そうだ、クッキーを持って来たのだ。一緒に食べよう」
「うん」