第三話 入水

 ヴァイスがエルディの部屋までやってくると、部屋の鍵は閉まっていた。ヴァイスは管理人の部屋に声をかけ、エルディの部屋の鍵を開けさせると、ドアを勢いよく開けて中に入った。
 すると、浴室の前に靴が脱ぎ捨てられ、水の流れる音がする。しかし、浴室の電気はついていない。まさか。
 「エルディ!」
 ヴァイスは浴室の電気をつけた。すると、着衣のまま水風呂に入って眠るエルディがいた。
 「エルディ!エルディ、しっかりしろ!」
 するとエルディはゆっくり目を開けた。
 「あれ?ヴァイス?え?今何時?」
 「何やってるんだエルディ!死ぬ気か!!」
 大家もエルディを叱りつける。
 「フィルキィさん、うちのアパートで自殺なんかやめてください!!死ぬ気なら出てってもらいますよ!!」
 エルディは眠りから覚めきれず、なおも眠ろうとした。それを勘違いしたヴァイスに頬を思いっきり殴られる。
 「エルディ……!お前は本当に馬鹿野郎だ。今度死のうとしたら許さねえ!!目を開けろ!」
 エルディはようやく自殺に失敗したのだと悟り、浴槽から出て、服を脱ぎ、洗濯機に濡れた服を押し込んで、パジャマを着た。
 「ごめん、ヴァイス……もう、やらないから……。今日は、安心してよ」
 ヴァイスは泣きながらエルディを強く抱きしめると、彼に念を押して帰っていった。大家も彼のあとに続いて帰っていく。
 「はあ、今回も死ねなかったか。ヴァイスにちょっと話しすぎたなあ。今度はうまくやろう。そういえば僕、溺れてたのかな?」
 実は服を着たまま水風呂に入って眠っていただけで、溺れてもいなければ凍死も遠く及ばない健康的な睡眠だった。そのため、カフィンは今回も彼が死のうとしたことすら気付かなかったという。
3/3ページ
スキ