第三話 入水

 「心配かけてごめんね。だから、僕ね、その女性に一目惚れしちゃって……。だから、もうモニカのことはいいんだ」
 「その女性にはその後も会ったのか?」
 「うん。そのあと2回ほど会ったよ。僕が落ち込んでいると、不思議と僕の前に現れてくれる、運命の人なんだ」
 それを聞いてヴァイスの顔がぱあっと輝いた。
 「そうか!じゃあ、モニカに失恋したことは正解だったかもな!そのおかげで運命の女性に出会ったんだ。よし、今度はモニカと同じ失敗は重ねるなよ。今度は何度も何度もアプローチして、出来るだけ印象付けるんだ。何度も会っていれば、そのうちこっちのことが気になるはず。応援してるぜ親友!」
 エルディもぱあっと顔を輝かせた。やはりヴァイスはいつでも味方になってくれる唯一無二の親友だ。そういう事ならばぜひ何度でも自殺未遂をして、彼女にアプローチしなければ。
 「ありがとうヴァイス!ぜひそうするよ!よし、今夜は飲もう!!」
 ちょうどその頃店内がわあっと歓声に包まれた。DJのご登場だ。ヴァイスはグラスの中身を一気飲みすると、エルディの手を引いた。
 「始まったか!相棒、踊ろうぜ!」

 踊り疲れて酔いつぶれて、フラフラと帰宅したエルディ。今ならぐっすり眠れそうだ。
 「こんな最高の気分で死ねたら楽に死ねるかなあ。そうだ!バスルームに水を張って入水自殺をしよう!眠ってる間に死ねるぞ!そしたら今度こそカフィンさんのところに行ける!」
 エルディはバスタブに着衣のまま入り、水を全開にした。泥酔して火照った体に冷たい水が気持ちいい。
 「おやすみ……カフィンさん……」

 ヴァイスは楽しい気持ちを抱えながらエルディの幸せについて考えていた。落ち込んでいると必ず現れる女性か……。そんな女性に何度もアプローチするにはどうすればいいだろう。と、そこまで考えたとき、ヴァイスは胸騒ぎを覚えた。まさか、エルディはまた会うために自殺未遂を繰り返す、などという馬鹿な真似はしないよな……?
 ヴァイスの読みは大当たりなのだが、まさか彼も想い人が本物の死神だ、などというファンタジックな真実だとは、考えもしない。せいぜい運命的な近所のお姉さんか何かだろうという推察だが、エルディならやりかねない。
 ヴァイスはエルディの携帯電話に電話を掛けた。
 「……出ないな……。寝たか?いや、もしかしたら……」
 ヴァイスは電話を切り、エルディのいるアパートへ駆け出した。
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