第二話 ビルからの飛び降り

 エルディは思い切って少女に声をかけた。
 「あのですねえ、僕より先に死なないでください!その死女神さんは僕の女神なんです。抜け駆けなんて狡いですよ?!」
 エルディは金網によじ登り、フェンスを乗り越えてビルの縁に立った。
 「エルディ!貴様まで来たのか?!」
 死女神は仰天した。エルディは今日死ぬ予定ではなかったため、ノーマークだった。頭の痛いお荷物が二人もそろってしまったことに、死女神はため息をついて天を仰いだ。
 「えっ、だれこの人……。カフィン、知り合いなの?」
 「お前のように中途半端に死にたがる奴は他にもいるということだ」
 エルディは少女に詰め寄ると、説教をし始めた。
 「死女神さんはあなたはまだ死ねないと言ってるんです。それなのに死のうとすると、今よりみじめになりますよ。痛いし、苦しいし、怪我はするし、いいことなんて一つもない。死女神さんが死ねないというならあなたは死ねないんです。もう決まっていることなんです。その若さで人生を棒に振るつもりなんですか?生きてください。僕より先に死のうとするなんて許さない」
 先日軽率に死のうとしたエルディが、真っ当な説教をする姿に、死女神は感心した。
 (おお、自殺が愚かな行為だと学習したようだな)
 一方、少女は突如現れ同じ目線で自殺を止めようとするエルディが貴公子のように見え、彼の説教に心を打たれていた。
 (あ、この人結構かっこいい。自殺未遂経験者かな。僕より先に死ぬななんて……関白宣言みたいなセリフをさらっと言うのね)
 エルディの演説はヒートアップする。
 「僕は先日自殺未遂をしました。その時あなたの隣の死女神さんに会って、命の尊さを学んだんです。死女神さんが死ねないと言ったら、本当に僕は生きながらえてしまった。目が覚めた時はあまりの気持ち悪さに、自殺しようとしたことを後悔した。一思いに死ねたらどんなにか楽だろうと思うほど、死にそうなぐらい苦しんだ。でも死ねなかったんです。中途半端に死のうとすると、生き延びたときにみじめになりますよ。僕の首には首吊り縄の跡がくっきり残ってしまった。もう首を露出して生活できません。こんなふうに、後遺症が残るんです。その若さで後遺症と闘うんですか?早まった真似はやめてください。あなたより先に死ぬのは僕だ。死の覚悟も定まっていないくせに、自殺なんかに手を出さないでください!」
 死女神は饒舌に語るエルディに感心していた。まさに彼女が言わんとしていることを全部語ってくれている。これは少女も胸を打たれ、生きようと考えなおしてくれるに違いない。
 死女神が少女を見やると、少女は瞳にハートを浮かべて、エルディの説得に聞き惚れているようだった。これで一安心か。死女神は胸をなでおろし、帰ろうとした。すると、
 「じゃあ、僕はお先に死にます。死女神さん、僕の死に様見守っていてください!」
 と、エルディがフェンスから手を離し、勢いよく飛ぼうとしゃがみこんだ。
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