第十話 服毒

 「僕のドレリーに何するんだ!!」
 裸の男と取っ組み合いで殴り合うエルディ。しかし、ドレリーは衝撃的なセリフを放ったのである。
 「やめてエルディ!私はもうエルディとの生活はうんざりなの!」
 「……え?」
 時が止まったようだ。間男も、間男を自覚しているためか、本命を突き放すドレリーのセリフに固まる。
 「エルディとの生活は幸せだったわ。でも、幸せ過ぎて地獄だった。絵も描けない。詩も思いつかない。アイデアがない。ぬるま湯じゃ私は絵を描けないの!もううんざりなのよ!刺激が欲しい。こんなことなら元カレのほうが数倍幸せだった!あの人は私を殴ったけど、あの人は私を必要としていたもの!エルディは、私じゃなくても誰でもいいでしょう?!」
 エルディの目から無意識に涙が流れた。
 「そんな……僕は、ドレリーのために、必死に頑張って働いてきたのに……」
 「その分私を放置したでしょう?仕事仕事って。全然私を構ってくれない」
 「構ったじゃないか!精一杯向き合ってきた!」
 「私はそれじゃ足りないのよ!!……寂しかった。虚しかった。幸せになるのが怖かった」
 放心状態のエルディを尻目に、ドレリーはいそいそと服を着て、間男とともに家を出て行った。
 「あとでまた荷物取りに来るけど、もう一緒には暮らせないから」
 エルディは、また失恋してしまった。

 もう失敗しないように。考えに考え抜いて配慮して、精一杯愛した女性は、その愛が退屈だと言って出て行った。最善の策を尽くしたことが裏目に出るなど考えられるだろうか。
 ドレリーのホームページには、再びDVを受けている愚痴が書かれていた。あの間男にいじめられているのだろう。
 『辛い、痛い、苦しい。でも、もうあの幸せな日々に帰れない』
 エルディのことは美談にされてしまった。こんな屈辱があるだろうか。
 「死にたい」
 エルディは確実に死ぬため、服毒自殺を試みた。トイレの漂白洗剤を飲めば、誰にも知られず確実に死ねるはずだ。
 エルディは洗剤を飲み、地獄の苦しみにのたうち回り、ドレリーへの呪詛を抱きながら意識を失った。
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