第十話 服毒

 いつしかエルディは沢山彼女の画用紙を購入し、常連になっていた。
 絵を描いた理由や、ポエムの意味など、詳しく話を聞いているうちに、彼女が辛い立場に置かれていることがわかった。
 彼女は名をドレリー・ポピレーンといった。彼女は交際相手にDVを受けていた。その辛い気持ちや叶わぬ恋心を吐き出したくて、書き始めた詩がインターネットで人気になった。そこで彼女は自分の詩画に価値を見出し、交際相手の目を盗んで詩画活動を始めたという。
 「なんでそんな人と付き合うんですか!辛いんでしょう?」
 エルディは彼女を救いたいと思い、説得した。
 「辛いけど、あの人、私がいないとだめになるから……」
 「暴力ふるう人は本当にあなたを愛しているとは言えない!僕と付き合ってください!必ずあなたを幸せにします!」
 「えっ……」
 エルディは彼女の両手を両手で包み、祈るような形で彼女の目を見据え、口説いた。
 「僕はあなたの詩画の大ファンです。あなたの気持ち、あなたの心、よく解ります。きっとあなたを幸せにします。あなたは幸せになるべきだ」
 エルディの青い瞳が、ドレリーの心を大海のように包み込んだ。
 「ありがとう……!きっとあなたとなら幸せになれる。私を貰ってくれる?」

 エルディはドレリーを自宅に呼び、同棲生活を始めた。ドレリーの元カレの連絡先は着信拒否し、新居を調べられないように行政手続きをし、晴れて幸せな生活を手に入れた。
 エルディはドレリーの我儘や欲しい物を何でも聞いた。ドレリーの誘いもいつも迎え入れた。ドレリーが創作活動に没頭できる環境を整え、ドレリーにとって一点の不安材料もない快適な生活を送った。
 ドレリーの喜びが、エルディにとって何よりの喜びだったのである。
 ドレリーはデライラのような迷惑行為もせず、常識人で、優しく、お金もたくさん稼ぐ大変な人気作家だった。
 このまま幸せの絶頂で、いよいよ結婚を考えた時のことである。
 ドレリーは、その生活にうんざりしていた。
 エルディとの生活は、とにかく刺激がなくつまらなかった。
 なんでもいうことを聞いてくれるYESMAN。いつも笑顔を絶やさず、楽しいことばかり。そんな生活の中で、ドレリーは創作意欲を完全に失ってしまった。
 詩画や絵本のアイデアがない。
 幸せ過ぎて、退屈で、味気ない。ドレリーは心の隙間を埋めるように、出会い系サイトで新しい男を探し、エルディの目を盗んで浮気を繰り返していた。
 そしてある日、エルディはとうとうドレリーの浮気現場を目撃してしまった。
 エルディがガラス細工を扱うように大事に愛していた女性が、まるでレイプのように乱暴に犯されている。エルディは雷に打たれたようにショックを受け、ドレリーに暴行する男に殴りかかった。
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