第八話 飛び込み
「危なかった……大丈夫ですか?足折れてませんか?」
エルディが男性を気遣うと、男性は足をさすりながら
「くじいてしまったみたいですけど、指が動くので折れてはいないみたいです。ありがとうございました。助かりました」
と、エルディに礼を言った。
二人がホーム下から生還すると、ギャラリーがわあっと歓声を上げた。勇敢なヒーローに、可哀想な盲人が救われた。皆二人に手を伸ばし、英雄と弱者を救い上げるという手柄を欲しがって群がった。二人は人々に引き上げられ、エルディと盲人の周りに人だかりができた。
「僕はデニス。デニス・ブランといいます。ご覧の通り、光すら見えない全盲です。あなたは?」
「僕はエルディ。僕は殺されても死なないぐらいの健康体ですよ。あなたが助かって本当によかった。足を怪我していたんですよね?どこかに急いで出かける用事があったんですか?」
「実は、いま通勤途中なんです。障害者雇用で事務をしていて…。でも、今日は出勤できないですね……。病院に行って脚を診てもらってきます」
そういうとデニスはリュックの中を探って、財布を取り出した。手探りで中身を確認すると、「ああ!」と小さく悲鳴を上げた。
「そういえば給料前でお金がないんだった…。どうしよう。病院に行ったら生活できないな」
エルディはデニスに同情し、とことん面倒を見てやろうという気持ちになった。
「あ、じゃあ、このお金、使ってください!」
エルディは財布の中の有り金をすべてデニスに手渡した。その感触に、デニスは驚いた。
「え、でも……」
「いいんです。あなたには必要なお金だ。使ってください」
男性は目に涙を浮かべてその金を受け取った。
「何から何まで、ありがとうございます」
「いいえ。僕にとっても喜びです」
エルディはにっこり微笑み、男性を電車に誘導して、この路線から行くことのできる駅近くの病院まで付き添った。
「人助けをすると、気分いいなあ♪」
晴れやかな顔をして帰路についたエルディだったが、ATMで金を引き出そうとして愕然とした。
「そうだった……忘れてた……。あれが最後の生活費だったんだっけ……。死のうとしていたから実家の仕送りも断ってしまったし、もう、どこにもお金がない……」
エルディはその場にへたり込むと、この先どうやって生きていこうかと途方に暮れた。
「もう、いよいよ、死ぬしかない」
軽い気持ちで死ぬ方法ばかり考えていたエルディだが、いよいよ本気で死なないわけにはいかなくなってしまった。
「ここで今すぐ死ぬ方法は……電車、か」
視界の端を、猛スピードで電車が通過してゆく。あそこに飛び込むしか、もう、道は残っていない。
エルディが男性を気遣うと、男性は足をさすりながら
「くじいてしまったみたいですけど、指が動くので折れてはいないみたいです。ありがとうございました。助かりました」
と、エルディに礼を言った。
二人がホーム下から生還すると、ギャラリーがわあっと歓声を上げた。勇敢なヒーローに、可哀想な盲人が救われた。皆二人に手を伸ばし、英雄と弱者を救い上げるという手柄を欲しがって群がった。二人は人々に引き上げられ、エルディと盲人の周りに人だかりができた。
「僕はデニス。デニス・ブランといいます。ご覧の通り、光すら見えない全盲です。あなたは?」
「僕はエルディ。僕は殺されても死なないぐらいの健康体ですよ。あなたが助かって本当によかった。足を怪我していたんですよね?どこかに急いで出かける用事があったんですか?」
「実は、いま通勤途中なんです。障害者雇用で事務をしていて…。でも、今日は出勤できないですね……。病院に行って脚を診てもらってきます」
そういうとデニスはリュックの中を探って、財布を取り出した。手探りで中身を確認すると、「ああ!」と小さく悲鳴を上げた。
「そういえば給料前でお金がないんだった…。どうしよう。病院に行ったら生活できないな」
エルディはデニスに同情し、とことん面倒を見てやろうという気持ちになった。
「あ、じゃあ、このお金、使ってください!」
エルディは財布の中の有り金をすべてデニスに手渡した。その感触に、デニスは驚いた。
「え、でも……」
「いいんです。あなたには必要なお金だ。使ってください」
男性は目に涙を浮かべてその金を受け取った。
「何から何まで、ありがとうございます」
「いいえ。僕にとっても喜びです」
エルディはにっこり微笑み、男性を電車に誘導して、この路線から行くことのできる駅近くの病院まで付き添った。
「人助けをすると、気分いいなあ♪」
晴れやかな顔をして帰路についたエルディだったが、ATMで金を引き出そうとして愕然とした。
「そうだった……忘れてた……。あれが最後の生活費だったんだっけ……。死のうとしていたから実家の仕送りも断ってしまったし、もう、どこにもお金がない……」
エルディはその場にへたり込むと、この先どうやって生きていこうかと途方に暮れた。
「もう、いよいよ、死ぬしかない」
軽い気持ちで死ぬ方法ばかり考えていたエルディだが、いよいよ本気で死なないわけにはいかなくなってしまった。
「ここで今すぐ死ぬ方法は……電車、か」
視界の端を、猛スピードで電車が通過してゆく。あそこに飛び込むしか、もう、道は残っていない。