第六話 リストカット
「そうだ、この腕に、”Coffin”と刻んでみようか」
それは、ほんの気まぐれな思い付きだった。まだ広々と空いている左腕のキャンバスに、最愛の人の名を刻んでみる。
”C O F F I N”
その傷は、不思議と深く傷がついて、待ちに待った流血を伴った。
すると、エルディの心に、ホッと温かい気持ちが広がった。
愛しい人の名前が、血を流している。死神にお似合いの赤い血が、死神の名前から流れている。
エルディは、その血を舐めてみた。ピリッと傷口が唾液の刺激で傷み、鉄のような肉のような味が口に広がる。
「カフィン……愛してる、カフィン……素敵な名前……。僕を、君の棺 に閉じ込めて、永遠に逃がさないで……」
エルディは何度もCOFFINという傷をカッターでなぞった。血を見ると、死にたい気持ちが霧散する。満足感が心に広がり、生きている実感が得られた。
エルディは高ぶった交感神経が副交感神経に切り替わったことで、満足感の中、眠りに落ちた。
後日、久しぶりにヴァイスと飲みに出かけたエルディは、無意識に左腕をかきむしってしまった。カサブタのせいで、肌に猛烈な痒みが襲ったのだ。露になった左腕の傷跡を見逃さなかったヴァイスは、エルディの腕を掴んで問いただした。
「お前……また死のうとしてるのか?なんだこの傷は?」
ヴァイスはわなわなと震えだし、裏切られたような顔をして、エルディの目をまっすぐ見た。エルディは「しまった」と思ったが、いつも明るいヴァイスに、落ち込んでいることがばれたくなかった彼は、思い切って腕をめくって、お道化てみせた。
「た、タトゥーだよ、タトゥー!自分で刻んだんだ。イケてるだろ?最愛の彼女の名前だよ」
「COFFIN……棺 ……それがお前の恋人の名前なのか?」
「そうさ!なんたって死神だよ、彼女は。最高にイケてるじゃないか、死神の名前が棺 だなんて」
ヴァイスは憐れむような眼をしたが、やがてエルディを理解しようとしたのか、フッと微笑んで、顔をあげて眩しいような笑顔をエルディに向けた。
「イケてるタトゥーだな!かっこいいぜ!俺も彼女の名前を左腕に刻もうかな!」
エルディはその笑顔を見て、ヴァイスに気を遣わせてしまったと、己を恥じた。もう二度とアムカなんてしない、と、エルディは固く誓ったという。
それは、ほんの気まぐれな思い付きだった。まだ広々と空いている左腕のキャンバスに、最愛の人の名を刻んでみる。
”C O F F I N”
その傷は、不思議と深く傷がついて、待ちに待った流血を伴った。
すると、エルディの心に、ホッと温かい気持ちが広がった。
愛しい人の名前が、血を流している。死神にお似合いの赤い血が、死神の名前から流れている。
エルディは、その血を舐めてみた。ピリッと傷口が唾液の刺激で傷み、鉄のような肉のような味が口に広がる。
「カフィン……愛してる、カフィン……素敵な名前……。僕を、君の
エルディは何度もCOFFINという傷をカッターでなぞった。血を見ると、死にたい気持ちが霧散する。満足感が心に広がり、生きている実感が得られた。
エルディは高ぶった交感神経が副交感神経に切り替わったことで、満足感の中、眠りに落ちた。
後日、久しぶりにヴァイスと飲みに出かけたエルディは、無意識に左腕をかきむしってしまった。カサブタのせいで、肌に猛烈な痒みが襲ったのだ。露になった左腕の傷跡を見逃さなかったヴァイスは、エルディの腕を掴んで問いただした。
「お前……また死のうとしてるのか?なんだこの傷は?」
ヴァイスはわなわなと震えだし、裏切られたような顔をして、エルディの目をまっすぐ見た。エルディは「しまった」と思ったが、いつも明るいヴァイスに、落ち込んでいることがばれたくなかった彼は、思い切って腕をめくって、お道化てみせた。
「た、タトゥーだよ、タトゥー!自分で刻んだんだ。イケてるだろ?最愛の彼女の名前だよ」
「COFFIN……
「そうさ!なんたって死神だよ、彼女は。最高にイケてるじゃないか、死神の名前が
ヴァイスは憐れむような眼をしたが、やがてエルディを理解しようとしたのか、フッと微笑んで、顔をあげて眩しいような笑顔をエルディに向けた。
「イケてるタトゥーだな!かっこいいぜ!俺も彼女の名前を左腕に刻もうかな!」
エルディはその笑顔を見て、ヴァイスに気を遣わせてしまったと、己を恥じた。もう二度とアムカなんてしない、と、エルディは固く誓ったという。