第四章 奇跡使いと言霊使いの恋

 翌朝、傷だらけになったテンパランスとアルシャインが食堂に現れた。三人は仰天した。二人とも一体何を犯したというのか。
「どうしたんですか、テンパランス様、アルシャインさん!その傷って、奇跡が使えないってことですか?」
 イオナが二人に駆け寄り、痛々しそうにその傷に触れる。
「……どうして二人が傷をつけているんですか?説明してください」
 ポールは昨夜何があったかを察した。まさかとは思うが、まさか。
「みんなに報告しなければならないことがあるんだ」
 アルシャインもテンパランスも、皆の心配をよそに晴れやかな顔で告白する。
「私たち、正式に結婚することにしたわ。式は、そうね、三か月後ぐらいに、ジャッジメント様にお願いする」
『ええーーーーーー?!』
 三人は三者三様の驚きに襲われた。イオナは二人の仲を密かに応援していたので、喜びの声を上げた。ポールはまさか結婚まで考えるとは、しかもジャッジメントに式をお願いするとは、と、その告白に驚く。ニコは純粋に、二人が結婚するということ自体に驚いた。
「なんでよりにもよってジャッジメント様に結婚式を依頼するんですか?!」
 ポールは嫌悪する師匠の名が出たことに気まずさを覚えた。しかし、
「ポール。あなたは私の後輩なの。ジャッジメント様は私の師でもあるのよ。弟子なのだから、師匠に式を依頼するのは何も不思議なことではないと思うわ」
「そ、そんな……。それでは、僕はどうしたら」
 アルシャインは狼狽するポールの様子が愉快でたまらない。テンパランスを求めて遠路はるばるやってきて、あれほど自分を敵視した恋敵だ。戦いには敗れたが、結果的に勝利したのはアルシャインだ。
「ポール。君はジャッジメント様のところに帰るんだ。君をこの事務所にはおいておけない」
 ポールはがっくりと肩を落とした。確かに、敗北した以上、この事務所に未練がましく居座ることはできない。
「わかり……ました……」
 イオナは応援していたカップルが成立したことを我が事のように喜んだ。
「まあ!まあ!じゃあ、今夜は腕によりをかけてご馳走作りますね!収穫祭じゃないから動物は食べられないんですよね。何作ろうかなー。ケーキはとりあえず作りますね!」

 その日、テンパランスとアルシャインはジャッジメントに電話で報告し、ポールを引き取ってもらった。そのついでに式の予約も取り付ける。ジャッジメントも仰天した。よりによって奇跡使い一戒律に厳しいジャッジメントに、結婚の報告をするとは。しかも、傷だらけの体たらくで。
「お前には失望したぞ、テンパランス!よく私にそんなことが言えたな!」
「私はもう立派な個人事業主ですわ、ジャッジメント様。かつての教え子の幸せを祝福してくださらないの?」
 確かにすでに独立した弟子に破門の脅しは通用しない。ジャッジメントがうんうん唸っていると、テンパランスはなおもお願いをする。
「そうですわ、スターに奇跡使い名を授けてくださいませんか?彼に似合いの奇跡使い名を」
「彼は何という名前なんだ」
 アルシャインは名乗った。
「スター・アルシャインと申します、ジャッジメント様」
 むうーんと、ジャッジメントは口髭を弄んで考えた。
「すでにスターという名前なのか。ならば、そうだな。……ブライト……。ブライトはどうだ?明けの明星・ブライトと名乗るがよい。ならば、その、結婚式のついでに正式に洗礼名を授けよう」
「ブライト……。素敵だわ、スター。ありがとうございます、ジャッジメント様」
「ありがとうございます、ジャッジメント様!」
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