第三章 ケフィ対奇跡使いと言霊使い

「みんな、気易く言わないで!!私は力が強すぎるから!!だから使えなかったのよ!!使いたくなかったの!!私は人を不幸にしかしないから!!」
 ベルの突然の怒声に三人は固まった。ベルがこんな大声を出したところは見たことがない。ベルは完全に切れてしまったようだった。
「自分の力に慢心した愚者にはなりたくなかった!エラ、貴女のことよ!貴女みたいに自分の力に溺れて能力を振りかざし、屍山血河を築き続けるぐらいなら、私は能力のコントロール方法をミルドレッド様から学ぼうと思った!日々の家事を続けることで精神を鍛錬して、言霊の選択の仕方をはじめから習得しなおそうと思ったのよ!だから言霊が使えなかったの、使いたくなかったのよ!!」
 あのおとなしく蚊の鳴くような声でしか話さなかったベルがやけに饒舌にまくしたてる。エラとニナには理解が追い付かない。
「エラ、ニナ、貴女達に何されても無抵抗だったのも、修行の一環だと思ったわ。これは私が背負ったカルマ。当然の報いだと思って耐えてきた。でもそれがケフィさんを結果的に不幸にした。どう足掻いても私の言霊は人を不幸にするのだわ。もういい、もう沢山!私だって忍辱負重に日々を過ごしていたわけでは無いわ。貴女達が言霊を饒舌に語る私を歓迎するのならば、良いわよ、見せてあげるわ、貴女達の身をもって言霊使いベル・フォーチュネットの真の実力を思い知るがいいわ!」
 するとベルは凛としたハッキリとした口調で異国語の言霊を紡ぎだした。三人には聞いたことのない言語だ。確かあの時、言霊の怪物を呼んだ時もこんな言葉を紡いでいた。
 エラが手にしていた縫い針が、エラの指に刺さった。
「痛い!……何?」
 今度は、糸切鋏がふわりと持ち上がり、ニナの眉間を狙って飛んできた。
「あづっ!!……ひいい!何?!」
 それが合図だった。ベルが言霊を書き記していた、ぬいぐるみ用の巻紙が一斉に言霊の力を発揮した。窓を破って石礫が三人めがけて飛んでくる。部屋の奥で蛇口から水が勢いよく噴き出す音がする。鋏が飛び交い、三人を切り刻む。カーテンが燃え始める。ミルドレッドの屋敷は大混乱に襲われた。
「ベル、ベル、これは何の言霊なの?!やめなさい!!」
 ミルドレッドの制止の声に、ベルは高笑いを上げた。
「古の古霊ヴィンディクタエですわ!貴女達が私の言霊を見たいというから、せっかくだから積年の恨みを晴らします。何をしても私の言霊は止められない。貴女達の業が清算されるまでこの言霊はあなたたちに復讐し続ける!!」
 すると、床下の配管から水が噴き出し、床を突き破って部屋中を水浸しにした。
「水の古霊アクアよ、静まり給え!炎の古霊フランマよ、怒りを鎮め給え!!」
 ミルドレッドが氾濫する古霊の力を鎮めようと古霊たちに語り掛ける。が、しかし。
「ヴィンディクタエの力はすべて蓄えられた業によるものよ。つまりこれだけのことを貴女達は私にしてきたの。呪うなら己が業を呪いなさいな」
 ベルに汚水をかけて虐めたこと、針や鋏で傷つけたこと、殴る蹴るの暴行、首を絞めたこと、水責めにして殺しかけたこと、焼けた炭を押し付けたこと、煙草をベル目掛けて投げたこと……。数々の所業がすべてエラ、ニナ、ミルドレッドに降りかかる。
「くっ……調子に乗るんじゃないわよ!」
 ニナが反撃の言霊を練る。
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