第三章 ケフィ対奇跡使いと言霊使い

 国営放送が開催したイムンドゥスとの戦いが終わった後。ミルドレッド達はケフィの治療をテンパランス達に託し、ケフィのいない生活を送っていた。
 呪殺の仕事やお払いの仕事をこなしながら、お守りのぬいぐるみを黙々と作り続ける。
「ケフィ、まだ治らないのかな」
 ニナがポツリとこぼした。皆、この数日間あえて話題に出さなかったケフィの話。沈黙が続いたことで、ニナは触れてはいけない話題だったことに気付いた。
「あ、ごめん。でも、気にならない?もう起きても大丈夫になったのかなーとか、どんな暮らししてるのかなーとか」
 エラが堪らずそれに答えた。
「テンパランスさんから連絡がないんだから知らないわよ」
 そして再び沈黙が訪れる。ここ数日、いつもこんな感じだ。必要最低限の会話しかせず、一言話せば沈黙。お喋りなニナにはこのお通夜のような沈黙が耐えられなかった。ついにニナは皆が触れようとしなかった話題に踏み込んでしまう。
「ケフィがあんなことになるきっかけってなんだったっけ?」
 一瞬にして空気が凍り付いた。ヒリヒリとした空気が張り詰める。
「ニナがベルを押したから、ケフィがそれを庇ったんでしょ」
 エラがいつにも増して厳しい目をニナに向ける。ニナは引き攣った笑いとともに弁解した。
「あたしが悪かったっていうの?エラも一緒にベルを責めてたじゃん!元はと言えばベルがちゃんと戦ってたらあんなことになって無くない?」
「私も戦ってました……。あなたたちは見えてなかったようだけど」
 ベルが小さな声で抗議する。ミルドレッドはベルを擁護した。
「ベルもちゃんと戦ってたわよ。クストスやアマーレを呼んで補佐していたわ」
「はあー?!私記憶にないんですけど?記憶にあったらベルを褒めてますよ?!」
 ニナは自分が戦犯にされるのは我慢ならないと、ベルを徹底的に責める態度をとった。ニナはエラも乗ってくれると期待していた。しかしエラは自分にも非があると認めていたため、ベルを一方的に責める気にはなれない。
「ベルも悪かったけど、あたしたちも悪かったのよ」
 ミルドレッドが仲裁しようとエラの言葉に続けた。
「あたしたちみんな悪かったのよ。本気出さなかったベルも悪かったし、それを責めて喧嘩したあなた達二人も悪かった。それを野放しにしたあたしも悪かったのよ。ケフィがそれを全部庇ったの。はい、おしまい。仕事なさい」
「私も戦ってたのに……最終的に倒したのは私なのに……」
 ベルがブツブツ自己弁護をこぼしていると、カッとなったニナの神経に障った。
「じゃあ最初からあれをやればよかったじゃないさあベル?!あんな力があるならサクっと決着ついてたじゃない!なんで出し惜しみしてたの?いやらしいやつだねえ?!」
 ニナがまくしたてると、エラもそれに口を出した。
「そうよね。ベル全然力衰えてなかったじゃない。なんで力封印してたのよ?本当に今まで力が使えなかったの?補助言霊は使えたんでしょう?」
 ミルドレッドもそれに合わせて疑問を口にした。
「ベル、あれは何語なの?あなたいつからあんな言霊が使えたの?最初からずっと手加減してたってことよね?何かあったの?」
「使えない理由があったんです……。使いたくなかったんです……」
 消え入りそうなベルの自己弁護。それに矢継ぎ早に浴びせられる疑問、非難、口撃……。
 プツン。と、ベルの堪忍袋の緒が切れた。
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