第三章 ケフィ対奇跡使いと言霊使い
(嫌だ……嫌だ……みんな、嫌だ……!)
奇跡が使いたくても使えないニコ。感情の昂りは彼の魔力を加速度的に上昇させる。
「ニコ、こう言うのじゃ、『エクシティウムよ、この地を破壊しろ』と!」
ニコにできることは、この高まった魔力を言霊の力に変換することのみ。ニコは叫んだ。
「エクシティウムー!!この地を破壊してくださいー!!!」
時は来た。
「今だ!形あるものよ、虚無へ帰れ。古の亡霊よ、虚無へ帰れ。虚無の古霊ニヒリウムよ、災いの火を消し去れ!!」
ニコを中心として渦巻いた巨大な竜巻となった魔力は、ニヒリウムの吐息に吹き消された。力が掻き消されたニコは支えを失い、その場に膝をついた。
イオナがニコに駆け寄る。
「ニコ、怒らないの。落ち着いて。何にも怖くない、怖くないよ。みんなニコニコだよ。みんなニコのことが大好きだよ。落ち着いて。深呼吸。深呼吸」
「イオ…ナ?」
ニコの大きな体をイオナの小さな体で抱き止める。イオナは脱力し倒れそうになるニコを後ろから支え、その頭を胸に抱いた。
「また泣いたのニコ?泣くほど興奮しちゃだめだよ。みっともないよ。男の子でしょ」
「イオナ、嫌いだ」
イオナは努めて笑って見せた。ニコは怖くない、いつもの癇癪だと自分に言い聞かせ、ニコを刺激しないよう優しく語りかける。本当は怖くてたまらない。手が震える。心臓が早鐘を打つ。
「嫌いなんて嘘だ。ニコは私のこと大好きだったでしょ。私もニコが大好きだよ」
「ケフィ、嫌いだ」
「ケフィは、病気が治ったから帰ります」
「帰るの?」
「帰るよ」
「テンパランス様嫌いだ」
「テンパランス様は今力が使えないの。大変なんだよ、優しくしよう」
「アルシャインさん嫌いだ」
「アルシャインさんがいなかったらこの事務所やっていけないんだよ?アルシャインさん優しいでしょ?」
全員を嫌いだと確かめるように呟くニコに、上手く言い聞かせるイオナ。ニコの憎悪の矛先を逸らさなくては。
「みんないい人でしょ、嫌いじゃないよね?」
「イオナ僕のこと好き?」
「好きだよ、大好きだよ。私はニコのことが大好き。ニコは?」
「イオナ、好き」
「そう、ありがとう。暴れてみんなに迷惑かけた時はどうするの?」
「ごめんなさい」
「そう、みんなにごめんなさいできるかな?」
「できる」
ニコはようやく平静を取り戻し、ゆっくりと立ち上がった。そしてほかのメンバーに向き直り、頭を垂れた。
「ごめんなさい」
これがまともな知能のある一人の人間ならば、とても謝って済まされるようなことではない。しかし、ニコには罪の意識があまりない。それを理解する知能も足りない。そして、そんなことができるまともな知能があったら、ニコを落ち着かせ、暴走を止めることもできなかっただろう。ニコの知的障害によって引き起こされた大事件は、その障害の重さに助けられて沈静化した。
奇跡が使いたくても使えないニコ。感情の昂りは彼の魔力を加速度的に上昇させる。
「ニコ、こう言うのじゃ、『エクシティウムよ、この地を破壊しろ』と!」
ニコにできることは、この高まった魔力を言霊の力に変換することのみ。ニコは叫んだ。
「エクシティウムー!!この地を破壊してくださいー!!!」
時は来た。
「今だ!形あるものよ、虚無へ帰れ。古の亡霊よ、虚無へ帰れ。虚無の古霊ニヒリウムよ、災いの火を消し去れ!!」
ニコを中心として渦巻いた巨大な竜巻となった魔力は、ニヒリウムの吐息に吹き消された。力が掻き消されたニコは支えを失い、その場に膝をついた。
イオナがニコに駆け寄る。
「ニコ、怒らないの。落ち着いて。何にも怖くない、怖くないよ。みんなニコニコだよ。みんなニコのことが大好きだよ。落ち着いて。深呼吸。深呼吸」
「イオ…ナ?」
ニコの大きな体をイオナの小さな体で抱き止める。イオナは脱力し倒れそうになるニコを後ろから支え、その頭を胸に抱いた。
「また泣いたのニコ?泣くほど興奮しちゃだめだよ。みっともないよ。男の子でしょ」
「イオナ、嫌いだ」
イオナは努めて笑って見せた。ニコは怖くない、いつもの癇癪だと自分に言い聞かせ、ニコを刺激しないよう優しく語りかける。本当は怖くてたまらない。手が震える。心臓が早鐘を打つ。
「嫌いなんて嘘だ。ニコは私のこと大好きだったでしょ。私もニコが大好きだよ」
「ケフィ、嫌いだ」
「ケフィは、病気が治ったから帰ります」
「帰るの?」
「帰るよ」
「テンパランス様嫌いだ」
「テンパランス様は今力が使えないの。大変なんだよ、優しくしよう」
「アルシャインさん嫌いだ」
「アルシャインさんがいなかったらこの事務所やっていけないんだよ?アルシャインさん優しいでしょ?」
全員を嫌いだと確かめるように呟くニコに、上手く言い聞かせるイオナ。ニコの憎悪の矛先を逸らさなくては。
「みんないい人でしょ、嫌いじゃないよね?」
「イオナ僕のこと好き?」
「好きだよ、大好きだよ。私はニコのことが大好き。ニコは?」
「イオナ、好き」
「そう、ありがとう。暴れてみんなに迷惑かけた時はどうするの?」
「ごめんなさい」
「そう、みんなにごめんなさいできるかな?」
「できる」
ニコはようやく平静を取り戻し、ゆっくりと立ち上がった。そしてほかのメンバーに向き直り、頭を垂れた。
「ごめんなさい」
これがまともな知能のある一人の人間ならば、とても謝って済まされるようなことではない。しかし、ニコには罪の意識があまりない。それを理解する知能も足りない。そして、そんなことができるまともな知能があったら、ニコを落ち着かせ、暴走を止めることもできなかっただろう。ニコの知的障害によって引き起こされた大事件は、その障害の重さに助けられて沈静化した。