第三章 ケフィ対奇跡使いと言霊使い

「時は一刻を争う。奴がエクシティウムの言霊を発現したら、こう唱えるがいい。『形あるものよ、虚無へ帰れ。古の亡霊よ、虚無へ帰れ。虚無の古霊ニヒリウムよ、災いの火を消し去れ』と。奴の力は強大だ。省略して防ぎきれる力ではあるまい」
「形あるものよ…か…わかりました。やってみます。力を貸してください!」
 ケフィがブツブツ何かと対話しているため、アルシャインは奇跡を使ってニコの攻撃を防いでいた。金属の神で巨大な盾を作り、攻撃を防ぐが、ニコの攻撃が強すぎるため、破壊と再生を繰り返していた。
「ケフィ!!どうしたんだ、君も頼むよ!」
「アルシャイン、ケフィは古霊と対話しているわ。何か打つ手があるのかも。話させてあげなさい」
 ニコは力を繰り出しても繰り出しても防がれることに癇癪を起していた。
「もう!!やめてよ!!みんな死んでよ!!大っ嫌いだ!!あーーー!!!!」
 ニコは自分の頭を両手のこぶしで殴り、奇跡のようにイメージで動かない言霊の力にも腹を立てていた。
「もっと、こう!!もっと、こう!!」
「思い通りにしたければ言霊を紡ぐしかないぞ、ニコよ。どうしたいのじゃ」
 ニコはパニックを起こし、いつの間にか泣いていた。複雑な想いが自分の中で処理しきれない。ニコには抱えきれない感情が爆発し、泣き叫びながら自分の頭を殴り続ける。
 テンパランスはそんなニコの様子に、ふといつもニコがパニックを起こしていた時の対処法を思い出していた。確か、イオナがいつも強く抱きしめ、落ち着くまでじっとしてニコの興奮を止めていた。 
「イオナ、ニコはパニックを起こしているわ。やはりニコにはイオナが必要なんじゃないかしら」
「え、ええ?!あんなふうになったニコを、私が止めるんですか?!」
「ニコはあなたにしか止められないわ。思い出して。パニックを起こしたとき、私では返り討ちに遭って殺されかけた。でもニコはあなたにだけは力を使わない。ニコはきっと、あなたの言うことしか聞きたくないのよ。ニコにはあなたが必要なのだわ」
 そうは言われても、先ほどあんなにはっきりと「イオナが嫌いだ」と言われたのに、まだイオナに彼を止める力があるだろうか。
 奇声を上げて暴れ、もがき苦しむニコを四人は見守った。ニコが落ち着いてくれたら、まだ希望があるのではないか。
 と、ケフィがニヒリウムとの会話を終え、他の三人に作戦を説明した。
「皆さん、聞いてください。僕がニコの攻撃を止めます。今、新しい言霊を覚えました。それを使ってみます」
「新しい言霊?可能なのかい?」
「言霊は奇跡と違ってイメージが必要ないから、言霊さえ紡げれば可能だと思います」
「じゃあ、ケフィはニコの力を封じて。その隙にイオナ、いつもみたいにできるかしら」
「え、やだ、怖いです!」
「ニコは今言霊以外の力が使えないわ。言霊も使えない今しかチャンスはないの」
「そっか……奇跡は使えないんですよね。……やってみます」
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