第三章 ケフィ対奇跡使いと言霊使い

 アルシャインはケフィに駆け寄り、その傷を治療した。
「水の神!命の神!大丈夫かい、ケフィ」
「ありがとうございます、アルシャインさん」
 テンパランスは頭を抱えた。彼女が力を使えないときに、よりにもよって一番敵に回したくない少年と戦わなくてはならないなんて。テンパランスは手も足も出ない。戦えるのはアルシャインと病み上がりのケフィだけだ。
「ニコ、聴きなさい!あなたはその神様に操られています。その神様は神ではないの!古霊なの!奇跡使いが使ってはいけない力なのよ!」
 しかしニコは既にそんなことは身をもって学習している。
「テンパランス様、僕はこの神様と一緒に戦うの!×の神様が来たから!」
「ニコにも監視の神の罰が降りることはあるのか……」
 今までペナルティーを受けたところを見たことがなかったアルシャインは、妙なところで感心してしまった。
「ニコ、やめて!ケフィはテンパランス様が命を懸けて生き返らせた大切な人なの!」
 イオナの叫びにも、ニコは耳を貸さない。それどころか、火に油を注いでしまった。
「だから嫌いなのー!!!」
 ニコはすうっと息を大きく吸い込み、声の限りに言霊を叫んだ。
「破壊の古霊エクシティウム!!みんなを八つ裂きにしてください!!」
「まずい、守護の古霊クストスよ、皆を衝撃波から守りたまえ!」
 ケフィも間一髪でクストスの言霊で一同を守った。言霊の盾から外れた倉庫の壁と屋敷の壁は大きく抉れてしまった。
「もう!ニコのわからずや!そんなニコ嫌いよ!」
 イオナが脅かしても、ニコの心はびくとも揺るがなかった。
「僕もイオナ嫌いだもん!!」
 何とかしてニコの力を止めなければならない。
「そうだ!喉を枯らせて声が出なくなれば…!風の神!」
 アルシャインは砂埃を巻き上げてニコに突風を叩きつけた。しかし顔を覆って風と砂埃から顔を守るニコ。根本的な攻撃にはならなかった。
「ケフィ、どうしたら封じられる?」
「そんなこと言われても……。対抗できる言霊なんて……」
 その時、ケフィの脳内に低い声が響き渡った。夢の中でよく聞く、あの薄気味悪い声だ。
「ケフィよ、力が欲しいか」
「またあなたですか。今度は何です?」
「儂ならばあの古霊の力を無効化できるぞ」
「またまた。あなた一体誰なんです?」
 この期に及んでも信用しないケフィに、声はついにその正体を現した。
「我は虚無の古霊ニヒリウム。お前が生まれた時より守護古霊としてお前を見守ってきた。今こそ力を貸そう」
 ケフィの脳裏に、翼を広げた黒い竜が立ち上がった。
「虚無の古霊ニヒリウム……?あなたが僕の守護古霊……?」
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