第三章 ケフィ対奇跡使いと言霊使い

「ニコ、こんなところにいたんだね。探したよ」
 ケフィはニコに駆け寄ろうとしたが、その射貫くような眼差しにほんの少しおくした。
 (そんなに睨まれるほど嫌われてるのかな……)
「なんて言えばいい?」
「?」
 そう問われ、ケフィは少し言葉に詰まった。謝ってくれと言うつもりはないし、こんな時何と言ったらいいと教えればいいのだろう。
「こういう時は……なんて言えばいいんだろうね?」
 ケフィがぎこちなく微笑みかけると、ニコは「分かった」と呟いた。
「?」
 ケフィが、“ニコはケフィと話をしていない”ことに気付いたのは、ニコの口から言霊のリボンが紡がれて後のことだった。
「破壊と殺戮の古霊エクシティウム、ケフィを八つ裂きにしてください」
 刹那。猛烈な衝撃波がケフィに襲い掛かり、彼を切り裂いた。それとともに倉庫の壁と屋敷の壁で挟まれていた通り道が、見えない力にその表面を剥ぎ取られた。
「ニコ!それはまさか、言霊?!なぜ、なぜ君が言霊を?」
「あとなんて言えばいい?」
「やめるんだ、君にその力は危険だ!!」
 ケフィはテンパランスから習ったことがある。奇跡使いとして洗礼を受けたものが言霊を使うのは禁忌だと。ケフィの場合は奇跡使いの洗礼を受けたが、そのパワーソースが元々古霊由来のものだったため、影響を受けなかったのだが。
 ケフィやテンパランスのような例外を除いては、洗礼を受けたパワーソースから力を行使することが能力者の掟となる。そのため、すでに奇跡使いとして活躍しているニコが言霊を使うことは禁忌であり、また、パワーソースとの契約上あり得ないことなのだ。
「エクシティウム!あいつの頭に自転車のゴミをぶつけて!」
 早くも言霊の形式が乱れつつあるニコ。しかしエクシティウムはニコの知能に合わせて力を行使する。先ほど千切った自転車のパーツをケフィめがけて放つ。
「うわ!守護の古霊クストス!」
 ケフィはとっさに守護の古霊クストスで防御した。言霊のリボンが舞い、飛んできたガラクタを弾き落とす。
 言霊のパワーソースは古霊であり、言語IQの高さだ。本来ならニコレベルの言語IQではほとんど力を発揮しない古霊だが、古霊自らニコの魔力に惚れたものである。ニコの精神エネルギーを媒介として、不足している語彙のパワーをカバーしていた。
「ちゃんと決められた言葉を話さないと力が使えぬぞ!」
「難しくてわかんない!」
 ケフィは独り言を交えながら言霊を紡ぐ様を見て、ニコが何者かに操られていると見た。
「なんだ……?さっきからエクなんとかの言霊しか使わない……。古霊と直接契約しているのか?」
 丁度そこへ、ニコとケフィの攻防の音を聞きつけ、テンパランス達が駆けつけてきた。
「ニコ!およしなさい!その力は禁忌です!」
「テンパランス様、遅かったようです!ニコの顔を!」
 アルシャインが指さしたニコの顔には、大きな切り傷と血を拭った跡があった。
「ああ、ニコ……。遅かった……」
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