第三章 ケフィ対奇跡使いと言霊使い

 テンパランスが屋敷の奥の倉庫に行くと、封印していたはずの扉が開いていた。もしや、彼はこの中に入ってしまっただろうか。
「エクシティウムよ!呼びかけに答えよ!」
 テンパランスが声をかけるが、反応がない。
 テンパランスは奥の書庫の扉に手をかけた。「カチャリ」と扉が開く。さらにまずいことになった。ニコは確実にエクシティウムに引き寄せられたに違いない。
 さらに奥に進む。
「破壊の古霊エクシティウムよ!」
 呼びかければ暗室のように輝くはずのあの本が見当たらない。手探りで本を探すが、こう真っ暗では見つからない。しまった。彼は、まずいものを甦らせてしまった。
 テンパランスは書庫の鍵をかけ、倉庫の鍵も厳重にかけると、ニコを探して駆け出した。
「ニコならあの封印が解けるわ。まずい。でも、私は奇跡が使えない。言霊も使えないし……みんなであのニコに勝てるのかしら」

 時をさかのぼること数刻前。ニコはエクシティウムの言霊を覚えるのに必死だった。
「難しい」
「儂と同じ言葉を話すだけだ。いいか?せーの」
『恐怖の化身、暗黒の空、絶望と破壊の古霊エクシティウムよ』
 その時、にわかに空に暗雲が立ち込めてきた。
『世界に滅びを、まずはその自転車を粉々に砕け』
 すると、錆びて動かなくなっていた、近々ゴミに出す予定の自転車が、いびつひしゃげ、半分にねじ切れた。半分になった自転車のタイヤもブチブチと千切れると、自転車は見る見るうちに鉄くずと化してしまった。
 その時、ニコの体を一陣の風が切り裂いた。監視の神だ。ニコの頬に血がにじむ。
「痛い!ほら、おじさん、×の神様に怒られたよ!僕奇跡使えなくなっちゃった!」
「構うものか。奇跡より素晴らしい力をお前は手に入れたのだ。儂の言うとおりにすれば誰もお前を虐げられなくなる」
「おじさんの言うことわかんない」
 するとエクシティウムは再び肩慣らしに木を切り倒せと命令した。ニコは再びエクシティウムの言ったことを復唱し、言霊を使う。すると、屋敷の隅のゴールドクレストがバキバキと音を立てて倒れた。
「奇跡より難しい」
「しかし、お前ならば無限にこの力を使えるぞ。なあに、決まった言葉を言うだけだ。儂と一緒にな。簡単だとも」
「他にできることはないの?」
「破壊、殺戮、なんでもござれだ」
「壊すことしかできないの?」
「人を殺すこともできるぞ」
 そんなやり取りをしていると、ニコを呼ぶ声が聞こえてきた。ケフィの声だ。
「おじさん。僕あいつ殺したい」
「お安い御用だ。あいつも言霊使いならば、互角以上に戦えるさ」
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