第三章 ケフィ対奇跡使いと言霊使い

 さらに数日経過し、ケフィが起き上れるようになると、さすがに露骨な無視をするニコに、周囲が気付き始めた。ケフィが朝、ニコに「おはよう」と挨拶しても、ニコは無視して素通りする。見かねたイオナがニコに注意した。
「ニコ!ケフィ挨拶してるでしょ、そういうときなんて言うの?」
 するとニコは叱られていることが分かるのか、相変わらずケフィと目を合わせないまま、
「おはようございますー」
 と、口だけで返事をする。
 イオナはケフィが気の毒になった。
「ごめんねケフィ。あの子、いつもはもっと素直ないい子なの。ケフィに慣れてないみたいで、ごめんね」
 ケフィは笑ってごまかした。
「いいんですよ、ニコ、僕のこと敵だと思ってるかもしれないし。ほら、初めて会ったのがバトルの時だから」
「そっか……。それもあるのかも。ごめんね、ニコによく言って聞かせるね」
「お気になさらず~」
 そういうと、イオナは食堂にすたすた歩いていくニコを呼び止めながら後を追った。
「解ってくれるのかなあ?あの子、どうも普通じゃないみたいだしなあ」

 ニコは食堂のテーブル一面に角砂糖をまき散らし、それを積み上げて城を築いていた。ニコが退屈になると決まってやる一人遊びだ。
 そこへケフィとイオナが現れた。ケフィはその城のクォリティの高さに感嘆する。
「ニコ、すごいね、これ君が作ったの?角砂糖でお城を作るなんてすごいや」
 しかしニコはあえて無視をする。イオナはまたニコの態度に苛立ちを覚えた。
「ニコ?いーい?ケフィはニコの先輩なの。わかる?せ・ん・ぱ・い。元はニコより前にここにいて、修行してた仲間なのよ?」
 以前にも増してケフィとの仲を取り持とうと押し付けてくるイオナ。ニコはケフィのことばかり話題にするイオナに不信感を抱いた。
「わかんない」
 ニコはただ、イオナに自分のことだけを見ていて欲しかった。テンパランスが母親で、アルシャインが父親で、イオナは姉で、自分がいる。そんな疑似家庭の生活を想像して暮らしていたニコ。そのイオナがどこの馬の骨ともわからない同い年の男と仲良くしろという。大好きな姉を取られたような気持ちになったニコは、心穏やかでいられない。その思いは日増しに強くなっていく。
「イオナもケフィも大嫌い!!」
 そう叫ぶと、ニコは独りになれる場所を探して駆け出した。
「ニコ!」
 後を追おうとするイオナの肩に手を置き、引き留めるケフィ。
「イオナ、いいんですよ。僕、平気ですから。一人にさせてあげましょう。僕が治ったら、どのみち出ていきますから」
「でも……!やだ、そんな悲しいこと言わないでよ」
 イオナはニコもケフィも引き留められない自分の無力さに、涙をにじませた。
 きっと二人は仲のいい親友になれるに違いない。そう楽観していたイオナは、自分の掌の上で崩れてゆく角砂糖の城を、どうすることもできずに見ていることしかできなかった。
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