第三章 ケフィ対奇跡使いと言霊使い
テンパランスの事務所に、平凡な日常が戻ってきた。
テンパランスが伝票整理をし、アルシャインとニコが奇跡の小瓶を作り、イオナが家事に追われて忙しなく館内を行き来する。
ただ違ったのは、テンパランスが傷だらけで奇跡が使えないことと、ケフィという重症者の看病をしているということ。
テンパランス・アルシャイン・イオナ・ニコの四人生活にすっかりなじんでいたニコは、やっと確立された生活リズムやルールを乱すケフィの存在が受け入れられないでいた。
イオナの手伝いをして、乾いた洗濯物を折り目正しくタンスに収納する。洗濯の度に衣類や下着類が全てニコのルールで整頓されていた。常人が見たらゾッとするほどの正確さで。
そこに入り込んできた異物――ケフィの着替え。ニコはケフィの着替えのスペースを確保できず混乱していた。
「じゃあここにケフィの分をしまいましょう」
イオナは使用頻度の少ないタオル類を取り出し、ケフィのスペースを開けた。
「そのタオル……!」
「しばらく押し入れに入れるね」
ニコはお気に入りのタオルが手の届かないところに追いやられたのを寂しがった。使用頻度は少なかったが、ニコはそのタオルを撫でるのが好きだったのだ。
また、ニコにとって許しがたかったのは、アルシャインとイオナが定期的にケフィの看護をしていることだ。甘えたくてもイオナは「あとでね。ケフィの包帯交換したらね」と言う。奇跡の小瓶作りをしようと言うと、「光、命、水の神の小瓶を50個。この箱一杯にしていてくれ。ケフィの解毒をしてくるから」と、一人ぼっちにする。
テンパランスは奇跡が使えない。手伝ってもくれない。
ニコにとって、日常のルールが変更されるのは耐えがたい苦痛だった。
「いつもありがとう、イオナ」
イオナに包帯と薬を交換してもらい、解毒薬と解熱剤を飲ませてもらったケフィは、イオナにいつも感謝を述べる。
「どういたしまして」
イオナはいつも当たり前にやっている家事やメンバーの世話の延長のつもりだが、感謝されると悪い気はしない。むしろ、形式だけになった感謝が飛び交う毎日の中で、心からの感謝は喜びだった。
「具合は良くなってきてるの?」
「はい、だいぶ眩暈もなくなってきたし気持ち悪さもなくなってきたかな。まだ少し時々えづくけど」
「何も心配しなくていいからね?ゆっくり休んで」
「はい」
イオナが洗濯物籠を持って部屋から出ようとすると、開けた扉すれすれにニコが立っていた。
「キャッ!びっくりした―!ニコ!そんなとこにいたらびっくりするでしょ!」
ニコは虚ろな瞳でイオナを見下ろす。
「何してたの?」
「何って……ケフィの怪我の看病よ」
「そんなにいつまでも治らないの?」
「奇跡でも治るのに時間がかかることはあるのよ」
「ふぅん……」
「さ、ニコ、お洗濯の手伝いして。殺菌の奇跡使ってね」
「はぁい」
ケフィは何となくそのやり取りを見ていたが、ニコの態度が日に日に険しくなっていくのを感じる。可愛い後輩だから仲良くしてあげたいところだが。
「……」
扉が閉まるその刹那。ニコは憎悪を込めてケフィを睨んだかのように見えた。
「気のせいかな?嫌われちゃったかな……?」
テンパランスが伝票整理をし、アルシャインとニコが奇跡の小瓶を作り、イオナが家事に追われて忙しなく館内を行き来する。
ただ違ったのは、テンパランスが傷だらけで奇跡が使えないことと、ケフィという重症者の看病をしているということ。
テンパランス・アルシャイン・イオナ・ニコの四人生活にすっかりなじんでいたニコは、やっと確立された生活リズムやルールを乱すケフィの存在が受け入れられないでいた。
イオナの手伝いをして、乾いた洗濯物を折り目正しくタンスに収納する。洗濯の度に衣類や下着類が全てニコのルールで整頓されていた。常人が見たらゾッとするほどの正確さで。
そこに入り込んできた異物――ケフィの着替え。ニコはケフィの着替えのスペースを確保できず混乱していた。
「じゃあここにケフィの分をしまいましょう」
イオナは使用頻度の少ないタオル類を取り出し、ケフィのスペースを開けた。
「そのタオル……!」
「しばらく押し入れに入れるね」
ニコはお気に入りのタオルが手の届かないところに追いやられたのを寂しがった。使用頻度は少なかったが、ニコはそのタオルを撫でるのが好きだったのだ。
また、ニコにとって許しがたかったのは、アルシャインとイオナが定期的にケフィの看護をしていることだ。甘えたくてもイオナは「あとでね。ケフィの包帯交換したらね」と言う。奇跡の小瓶作りをしようと言うと、「光、命、水の神の小瓶を50個。この箱一杯にしていてくれ。ケフィの解毒をしてくるから」と、一人ぼっちにする。
テンパランスは奇跡が使えない。手伝ってもくれない。
ニコにとって、日常のルールが変更されるのは耐えがたい苦痛だった。
「いつもありがとう、イオナ」
イオナに包帯と薬を交換してもらい、解毒薬と解熱剤を飲ませてもらったケフィは、イオナにいつも感謝を述べる。
「どういたしまして」
イオナはいつも当たり前にやっている家事やメンバーの世話の延長のつもりだが、感謝されると悪い気はしない。むしろ、形式だけになった感謝が飛び交う毎日の中で、心からの感謝は喜びだった。
「具合は良くなってきてるの?」
「はい、だいぶ眩暈もなくなってきたし気持ち悪さもなくなってきたかな。まだ少し時々えづくけど」
「何も心配しなくていいからね?ゆっくり休んで」
「はい」
イオナが洗濯物籠を持って部屋から出ようとすると、開けた扉すれすれにニコが立っていた。
「キャッ!びっくりした―!ニコ!そんなとこにいたらびっくりするでしょ!」
ニコは虚ろな瞳でイオナを見下ろす。
「何してたの?」
「何って……ケフィの怪我の看病よ」
「そんなにいつまでも治らないの?」
「奇跡でも治るのに時間がかかることはあるのよ」
「ふぅん……」
「さ、ニコ、お洗濯の手伝いして。殺菌の奇跡使ってね」
「はぁい」
ケフィは何となくそのやり取りを見ていたが、ニコの態度が日に日に険しくなっていくのを感じる。可愛い後輩だから仲良くしてあげたいところだが。
「……」
扉が閉まるその刹那。ニコは憎悪を込めてケフィを睨んだかのように見えた。
「気のせいかな?嫌われちゃったかな……?」