第二章 奇跡使い対言霊使い

「ケフィさんが、生き返った?」
 ベルは控室で弱々しく微笑むケフィを見て、仰天した。
「テンパランスがやってくれたの。でも、まだ全身を毒に蝕まれているわ。そっとしておいてあげて」
 ミルドレッドに言われ、ベルは駆け寄りたい衝動をぐっと抑え、横たわるケフィに歩み寄り、膝をついてケフィの頬に触れた。
「よかった……。あなたが助かって、本当によかった……」
「ベルさん。僕のために戦ってくれてありがとう」
 エラとニナもベルを褒めたたえる。
「ベル、すごいじゃない!やればできるじゃないあなた!一番強かったわよ!」
「なんで今まで力を使わなかったのよ!あんなすごい力があるなんて知らなかった!見直したわ!」
 ベルは手のひらを返したように親しげに近寄ってくるエラとニナを睨んだ。
「だから、使いたくなかったんです」
 ベルは内心「こいつらを殺しておけばよかった」と呪詛したが、エラとニナはその表情の変化に気付かない。
「よくやったわ、ベル。これから期待してるわよ」
 ミルドレッドもベルを褒める。
「はい……」
 ベルは幾分控えめな目でミルドレッドにうなずいた。
 
 一時間の協議のあと、会場に集められた能力者たちに、賞が授与された。
 生き残った能力者たちの中でも目覚ましい活躍をした者たちが、呼び出されて賞金を受け取る。
「そして、MVPは二人います!敵の能力者を禁呪で生き返らせるという、まさに奇跡を起こした能力者、奇跡使いテンパランス殿です!」
 わあっと会場の観客が沸く中、テンパランスは茫然と賞金を受け取った。
「さらに、言霊の怪物を呼び出してイムンドゥスを倒したベルさん!おめでとうございます!」
 ベルもまた、予想だにしなかったMVPを手にして、茫然と賞金を受け取る。
「よくやったわベル。誰もあなたに文句はつけないはずよ、受け取りなさい」
 ミルドレッドに声をかけられ、それでもまだ夢でも見ているような心地だ。
 そこへ、
「これは、受け取れません!」
 と、テンパランスが向けられたマイクに言い放った。
「私は禁を犯しました。奇跡使いとして、人の生死にかかわる力は禁忌です。私は、辞退します」
 会場はどよめいた。
「しかし、奇跡を起こしたあなたこそ真の奇跡使い……!」
 食い下がる司会者に、「受け取れません」と、態度を崩さないテンパランス。
「当然だ。その女は禁を犯した。奇跡使い失格だ!」
 ジャッジメントが声を張り上げた。
「奇跡使いと言霊使いの戦いならば、その法が許す中で戦うべきだ!」
 しかし、声を張り上げるのはジャッジメントただ一人だけだった。能力者たちは、微妙な空気に気まずさを覚えた。奇跡とは、一体どうあるべき力なのか……。
「辞退した賞金は、慈善団体に寄付します」
「よろしいのですか?えー、であるならば、この賞金は慈善団体に寄付し、MVPはミルドレッド事務所のベルさんということで!おめでとうございます!」
 こうして、奇跡使い対言霊使い世界一決定戦は幕を閉じた。
 
 スタジアムのVIPルームでこの模様を見守っていた主催は、一本の電話をかけた。
「首相。ご覧になられましたか?勝負が決しました。受賞者には後ほど通知します。実に素晴らしい。見事なもんでしたよ」
 首相の声が受話器から漏れ聞こえるが、何を言っているかまでは判別できない。
「ええ、はい、必ずや。それこそ奇跡ですからね。はい。失礼します」
 受話器を置いた主催は、帰路に就く能力者たちを見下ろした。
「いいものができそうじゃないか……」
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