第二章 奇跡使い対言霊使い
ベルの紡いだ言霊はイムンドゥスに瓜二つだった。決定的に違うのは、イムンドゥスが黒いのに対し、その怪物は言霊のリボンがびっしり書かれた白い姿をしていたことだ。
視える者たちは絶望した。同じような怪物がもう一匹増えたことに。
しかし、どうも様子がおかしいのは、その怪物はイムンドゥスを攻撃するのだ。威力は遥かに強い。その衝撃で、火の粉が敵味方関係なく容赦なく降り注ぐ。
怪物はイムンドゥスのファイアブレス、尻尾薙ぎ、毒の吐息など、イムンドゥスの攻撃を忠実に真似、何倍もの威力で彼の邪竜を攻撃した。あれは災厄なのか、希望の星なのか。防御壁を展開した能力者たちは、二つの怪物の戦いを見守った。
一方そのころ、ケフィの死が受け止められないミルドレッド達は、悲嘆に暮れていた。
彼の死の原因を作ったのは自分たちだ、と、エラとニナは自分を責めた。
「こんなあっけないお別れなんてあんまりよ!目を覚まして!」
「いつもあなたには心配ばかりかけてごめんね。喧嘩ばっかり良くなかったね。ごめん、ごめんなさい……」
しかしどんなにケフィに詫びても、彼はピクリとも反応しない。
「言霊でケフィを生き返らせられたら、よかったのに……!」
ニナの「生き返り」という言葉に、エラが反応した。
「生き返り……。そうだわ。奇跡使いなら、そんな奇跡も起こせるんじゃないかしら。だって、奇跡使いってぐらいだもの」
ミルドレッドは「いくらなんでもそれは……」と言いかけたが、脳裏に、いつも憎くて仕方なかったあの女の横顔が過った。
「あいつなら、できるかも」
敵味方分け隔てなく、渇きに喘ぎ、傷を負った能力者たちを癒し続けたたった一人の奇跡使い。ケフィはあの女から託された子供だ。もしかしたら、彼女なら。
ミルドレッドは立ち上がり、彼女の元へ走った。
「テンパランス!!テンパランス!!」
ミルドレッドがよろめきながら駆け寄ってくるのを見て、テンパランスは何事かと驚いた。息も絶え絶えに彼女の胸に飛び込んできたミルドレッドを抱きとめると、「どうしたの貴女?」と声をかけた。
「あの子が、あんたのとこから来た、あの子、ケフィが……イムンドゥスに……」
ミルドレッドは息を整えながら事情を説明するが、テンパランスの顔を見ていると、ケフィが初めてミルドレッドの屋敷に来た時のことを思い出す。
「イムンドゥスに、殺され……っ!死ん……っ!即死だ……っ!」
嗚咽交じりに説明するミルドレッドが何を言わんとしているのか分からない。だが、ケフィに何かあったことは分かる。
「落ち着いてミルドレッド。ケフィがどうしたの?」
「……殺されたの……イムンドゥスに」
テンパランスは目を見開いた。
「即死」
「即……死……!」
いつも優しく微笑む、真面目な子。ひたむきに奇跡を覚えようとする姿勢、初めて力を使って見せた時の、あの嬉しそうな笑顔。あのケフィが、死んだ?
「お願い、助けて。あんた奇跡が使えるんでしょ?奇跡を起こして!あの子を助けて……!」
うわあああっとミルドレッドはその場に頽れ、泣き叫んだ。
「あの子が、死んだ……?」
テンパランスも状況がうまく呑み込めない。しかし、あのイムンドゥスだ。ありうることだ。
テンパランスは即座に生き返りの奇跡を思い出した。師匠の書斎で見つけた禁呪の本に書いてあった神の組み合わせが記されたページ。人間の作り方。
しかしあれは禁呪だ。その力を行使すれば、もう二度と奇跡が使えなくなるかもしれない。
だが、あのツンツン攻撃的なミルドレッドが自分を頼ってきたということは、よほどのことではないのか。何より、テンパランスは、ケフィのことを知りすぎるほどよく知っていた。
お母さんのために、奇跡使いにならなければと、泣いたあの子の、悔し涙。
「どこにいるの、ケフィは?連れて行って」
ミルドレッドはテンパランスの手を引いて走り出した。
視える者たちは絶望した。同じような怪物がもう一匹増えたことに。
しかし、どうも様子がおかしいのは、その怪物はイムンドゥスを攻撃するのだ。威力は遥かに強い。その衝撃で、火の粉が敵味方関係なく容赦なく降り注ぐ。
怪物はイムンドゥスのファイアブレス、尻尾薙ぎ、毒の吐息など、イムンドゥスの攻撃を忠実に真似、何倍もの威力で彼の邪竜を攻撃した。あれは災厄なのか、希望の星なのか。防御壁を展開した能力者たちは、二つの怪物の戦いを見守った。
一方そのころ、ケフィの死が受け止められないミルドレッド達は、悲嘆に暮れていた。
彼の死の原因を作ったのは自分たちだ、と、エラとニナは自分を責めた。
「こんなあっけないお別れなんてあんまりよ!目を覚まして!」
「いつもあなたには心配ばかりかけてごめんね。喧嘩ばっかり良くなかったね。ごめん、ごめんなさい……」
しかしどんなにケフィに詫びても、彼はピクリとも反応しない。
「言霊でケフィを生き返らせられたら、よかったのに……!」
ニナの「生き返り」という言葉に、エラが反応した。
「生き返り……。そうだわ。奇跡使いなら、そんな奇跡も起こせるんじゃないかしら。だって、奇跡使いってぐらいだもの」
ミルドレッドは「いくらなんでもそれは……」と言いかけたが、脳裏に、いつも憎くて仕方なかったあの女の横顔が過った。
「あいつなら、できるかも」
敵味方分け隔てなく、渇きに喘ぎ、傷を負った能力者たちを癒し続けたたった一人の奇跡使い。ケフィはあの女から託された子供だ。もしかしたら、彼女なら。
ミルドレッドは立ち上がり、彼女の元へ走った。
「テンパランス!!テンパランス!!」
ミルドレッドがよろめきながら駆け寄ってくるのを見て、テンパランスは何事かと驚いた。息も絶え絶えに彼女の胸に飛び込んできたミルドレッドを抱きとめると、「どうしたの貴女?」と声をかけた。
「あの子が、あんたのとこから来た、あの子、ケフィが……イムンドゥスに……」
ミルドレッドは息を整えながら事情を説明するが、テンパランスの顔を見ていると、ケフィが初めてミルドレッドの屋敷に来た時のことを思い出す。
「イムンドゥスに、殺され……っ!死ん……っ!即死だ……っ!」
嗚咽交じりに説明するミルドレッドが何を言わんとしているのか分からない。だが、ケフィに何かあったことは分かる。
「落ち着いてミルドレッド。ケフィがどうしたの?」
「……殺されたの……イムンドゥスに」
テンパランスは目を見開いた。
「即死」
「即……死……!」
いつも優しく微笑む、真面目な子。ひたむきに奇跡を覚えようとする姿勢、初めて力を使って見せた時の、あの嬉しそうな笑顔。あのケフィが、死んだ?
「お願い、助けて。あんた奇跡が使えるんでしょ?奇跡を起こして!あの子を助けて……!」
うわあああっとミルドレッドはその場に頽れ、泣き叫んだ。
「あの子が、死んだ……?」
テンパランスも状況がうまく呑み込めない。しかし、あのイムンドゥスだ。ありうることだ。
テンパランスは即座に生き返りの奇跡を思い出した。師匠の書斎で見つけた禁呪の本に書いてあった神の組み合わせが記されたページ。人間の作り方。
しかしあれは禁呪だ。その力を行使すれば、もう二度と奇跡が使えなくなるかもしれない。
だが、あのツンツン攻撃的なミルドレッドが自分を頼ってきたということは、よほどのことではないのか。何より、テンパランスは、ケフィのことを知りすぎるほどよく知っていた。
お母さんのために、奇跡使いにならなければと、泣いたあの子の、悔し涙。
「どこにいるの、ケフィは?連れて行って」
ミルドレッドはテンパランスの手を引いて走り出した。