第二章 奇跡使い対言霊使い

「嘘……!嘘よ、嘘でしょ?ケフィーーーー!!!!」
 ミルドレッド達はケフィに駆け寄った。彼は、目を見開いたまま、口から血を流して転がっていた。問いかけにも答えず、ピクリとも動かない。
「ああ、ああ、ケフィさん!嫌!!ケフィさん!!!」
 ベルは頭を掻きむしり号泣した。現実が受け止められない。混乱した頭を自分で叩き、夢であってほしいと願った。
「ケフィ……ごめん、ごめんね。あんな喧嘩なんかしなかったら……!」
 エラのその言葉にベルの心がすうっと闇に染まった。そうだ。元はと言えば、こいつらが私を突き飛ばしたりしなければ。
「許さない」
「ベル?」
 不穏な空気を察知したミルドレッドが、棒立ちのままのベルを見上げると、ベルはいつも半眼だった薄い目をカッと見開き、鬼のような形相でエラとニナを睨んでいた。
「私が言霊を使いさえすればケフィさんは死ななかったとでも言いたげね?解ったわ。言霊を使うわ。でも、どうなっても知らないから。あなたたちが巻き添えを食って死んだところで、ケフィさんは帰ってこないし、どうとでもなればいいわ。それでもいいなら、私。言霊を使って見せましょう?あんなトカゲ、一瞬で屠れるわ。あなたたちには逆立ちしたってできないってことを見せてあげる」
 ベルはイムンドゥスに向き直ると、言霊のリボンを紡ぎ始めた。
「……何語?」
「あれは、何?言霊……?」
 ベルはミルドレッド達の知らない言語で、長い長い言霊を紡いだ。
 言霊のリボンはいくつかの塊になり、何かを形作り、やがて、巨大な、怪物の姿をとった。

「危ない」
 クリスタルの中で新たに生まれた巨大な怪物の姿を見ていたニコは、本能的に危険を察知した。
「みんな死ぬ。危ない」
 ニコはクリスタルの壁を振動させると、奇跡未満の弱い力で砕いた。
 クリスタルが割れる音を聞いて、アルシャインが振り返った。
「ニコ!もう大丈夫なのかい?」
「危ない」
「危ない?」
 ニコはすうっと上空を指さした。
「危ない」
 アルシャインはその意味がよく理解できなかったが、ニコが何かを訴えているのは理解した。
「そうだよ。危ないよ。ニコはあれ、倒せるかな?」
「うん」
「よし、じゃあ、僕はテンパランス様が心配だから、テンパランス様のところに行ってもいいかな?一人で戦える?」
「うん」
「よし、じゃあ任せた。頼んだよ、ニコ」
 アルシャインはニコが再び戦意を取り戻してほっと安堵した。すると、ニコは奇跡でイムンドゥスを攻撃し始めたので、背後のニコを振り返りながら、テンパランスの元へ走った。
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