第二章 奇跡使い対言霊使い

「清き水流よ、水の古霊アクアよ!潤し給え!」
「なぜ、げほっ、なぜ喉の渇きが癒えないの?」
 言霊使い達はバタバタと倒れていった。実はアクアとシカティオは直接対応しない古霊であり、渇きを潤すにはウモーレムに呼びかけるしかない。そのことを知る言霊使いは一握りしかいなかった。
 言霊使い達は奇跡使い達に水を求めたが、奇跡使い達はイムンドゥスと戦うことで必死だった。敵の言霊使いに情けをかけている余裕はない。
「奇跡使い達、なんて奴らなの?あたしたちを見捨てるっていうの?」
 たった一人、言霊使い達に救いの手を差し伸べる奇跡使いがいた。テンパランスだ。
 言霊使い達はテンパランスの元へ殺到した。
「水を!水を!どうか!」
「待ってください、お一人ずつ……!ああ、アルシャインはどこかしら?ニコは?全く、肝心な時にいないのね!」
 ミルドレッド達も水が欲しくてたまらなかったが、ライバルのテンパランスにすがるほどプライドは折れてはいなかった。カサカサになった唇の皮を剥きながら、テンパランスを憎々しげに睨むミルドレッド。
「くそっ、これは絶対言霊だわ。誰よ。忌々しい」
「多分アクアでは回復しません。確か……ウモーレム……なら、回復するはず」
 ベルが呟くと、ニナがベルに掴みかかった。
「知ってるの?あんた知ってるの?」
「言霊は知りません……。ちょっと考えます」
「早く!早くしなさいよ!」
「ウモーレム……聞いたことないわ。意味は?」
 ミルドレッドがベルに問うと、
「潤い……だった気がします」
 と答えた。
 ミルドレッドはしばし考えると、独自に言霊を練り上げた。
「潤いの古霊、ウモーレムよ。乾いた体に命の水を。喉の渇きを潤し給え」
 すると、ミルドレッド達の目の前に水の球が現れた。
「これ……飲んでいいんですか?」
「多分……」
 ニナが恐る恐る噛り付いてみると、すうっと喉の渇きが癒された。
「美味しい!ミルドレッド様!大成功です!」
 皆がその水の球を口に運んだ。すると、一口で不思議と渇きが潤う。
「ひとまずこれで窮地は脱したわね。ベル、ありがとう」
 ミルドレッドがベルに礼を言うと、エラとニナはベルを責め立てた。
「何で知ってるくせに言霊使わないのよ!本当に使えないわねあなた!」
「私も……言霊なんか知りません……。古霊を知ってただけです」
「知識があるならできるでしょ!あんた前線で戦いなさいよ!ほら!行きな!」
 ケフィが慌てて割って入った。
「ベルさんのおかげで助かったんですから、責めることないじゃないですか!協力しましょう!ベルさん!持てる知識は出しましょう!ベルさんの知識があれば勝てますよ!」
 ニナはケフィを押しのけて、ベルをイムンドゥスの前に突き出した。
「ケフィは黙ってて!こいつができるならこいつにやらせたほうがいいの!行け!」
 ベルが押し出されてよろけると、その時、イムンドゥスの鋭利な棘のついた尻尾が、ベルを襲った。
「ベル!」
「危ない!」
 ケフィが駆け出し、ベルを庇い、突き飛ばすのと、棘が振り下ろされる瞬間が重なって。
 ケフィは、尻尾の棘に串刺しになり、跳ね飛ばされて転がった。
「ケフィーーーーーー!!!」
 あっけなかった。
 即死だった。
 最期の言葉もなく、ケフィは、絶命した。
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