第二章 奇跡使い対言霊使い

 戦いは熾烈を極めた。
 妨害行為も可能となったことをいいことに、ライバル能力者の妨害をする者が現れたが、小競り合いに気を取られている者たちはイムンドゥスの一薙ぎで粉砕された。また、負傷して一命をとりとめても、イムンドゥスは穢れの古霊。皮膚や爪、体液が強力な毒と菌で汚染されており、しばらくすると命を落とした。
 開始30分で20名の能力者たちが命を落とした。
「まずはあいつを弱らせないことには回復も追いつかない!」
「死ぬなよ、持ちこたえてくれ!」
「狂ってるわ……こんなものを見世物にするなんて」
 テンパランスは矢継ぎ早に奇跡を撃ち、攻守、回復に追われ、眩暈を覚えた。
「奇跡使いでこんな忙しさじゃあ、言霊使いはさぞかし疲労困憊でしょうね」
 ちらりと視線を巡らせて、ライバルのミルドレッドの姿を探すと、ミルドレッドは腰に下げていた水筒の水を飲み干しているところだった。言霊使いは言葉が力。口から休みなく言葉を紡ぎ続けるのは兎角喉が渇く。空になった水筒を投げ捨てたミルドレッドは、イムンドゥスから距離を取ると、炎の言霊を練り上げた。
「陽の光に大地の奥に、竈の中におわします、炎を司りし古霊・フランマよ!小さき害なすもの達を浄化し給え!灼熱の炎よ、燃やし尽くせ!」
 その言霊はイムンドゥスの表面を僅かに焦がしたが、体中が穢れそのものであるイムンドゥスには今一つ効果がない。
「はあ、はあ、何が効くのよ……。こんな時奇跡使いはいいわね、イメージ一つで何でもできるんだから!」
 ちらりと視線を巡らせてライバルのテンパランスの姿を探す。
 どうやら彼女は負傷したライバル奇跡使い達の治療に走り回っているようだった。
「ふっ、クソ真面目に敵にお情けなんて、馬鹿じゃないの?全くとんだお人好しね」
 ニコは思いつく限りの奇跡をぶつけていたが、何度やっても敵が怯む様子が無いので、混乱していた。
「なんで?なんで?もうやだ!帰る!」
 しかし、スタジアムの出入り口は閉鎖され、出入り口らしきところをしらみつぶしに当たっても、トイレぐらいしか見つからず、ニコは迷子になっていた。
 「~~~!!!~~~~~~~!!!!」
 ニコは混乱し、奇声を上げながら泣き始めた。
「ああ~~~!!!あああああ~~~!!!」
 出してくれとせがむようにドアを叩くが、ドアは開かない。
 その声に気付いたアルシャインがニコに駆け寄り、暴れる彼を抑えつけた。
「ニコ、あいつに勝つまで出られないんだ。怖いのは分かる!よし、じゃあ、ちょっと隅っこで休もう。ね?」
 アルシャインはニコをスタジアムの隅に座らせると、彼の周りをクリスタルで覆った。出たくなったら自力で出られるだろうし、とりあえずイムンドゥスの毒からは守られるだろう。
「ニコからはぐれるわけにはいかないな。ここで戦うか。よし。光の神!酒の神!水の神!風の神!」
 高齢の言霊使いアレキサンドライトは、逃げ惑うだけで体力が限界だった。腰も膝も悲鳴を上げている。なんとかして他の能力者の足を引っ張らなければ。
「喉がカラカラじゃわい。はー、これはたまらん。一休みじゃ」
 アレキサンドライトはスタジアムの隅に腰かけると、水の言霊を呟いた。
「天高くより降り注ぐ命の水、ウモーレムよ、喉の渇きを潤し給え」
 するとアレキサンドライトの目の前に、水風船のような水の塊が現れた。彼女はそれに齧り付くと、ごくごくと飲み干す。
 ふう、と一息つくと、彼女ははたと思いついた。そうだ、言霊使い達の喉を嗄らせばよいのだ。
「あれはなんという古霊じゃったろうか……。おお、そうじゃ、シカティオじゃ。生きとし生けるものから生命の水を奪え、渇きの古霊シカティオよ!言霊使い達に渇きを!」
 すると言霊使い達は喉に不快感を覚え、咳き込んだ。途端に練り上げていた言霊のリボンが消えてゆく。
「ははは、愉快愉快。粗方死んだら儂がとどめを刺して、優勝じゃな」
 するとクリスチーナがアレキサンドライトに駆け寄り、助けを求めてきた。
「先生、お水、お水くださいまし」
「おお、可愛いクリスよ。お前まで乾いてしもうたか。よしよし。ウモーレムよ、潤し給え」
 クリスチーナは水を飲むと、アレキサンドライトの隣に座り込んだ。
「クリス、お前に渇きの言霊を教えてやろう」
「渇きの言霊?もしかして、喉が痛くなったのはアレキサンドライト様のせいでしたの?」
「そうじゃ。ここから奴らが苦しむ様を眺めるのも乙なものじゃ。やってみぬか?」
 クリスチーナはうなずいた。
「面白そうですわ!言霊使いには致命的ですわね!」
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