第二章 奇跡使い対言霊使い

 ミルドレッド達が会場に到着すると、彼女は見知った顔を見つけた。金にがめつい言霊使いアレキサンドライトだ。
 喜寿は超えている老婆だが、悩める利用者たちから巻き上げた高額のお布施でまるまると肥え太り、きらびやかな宝石や呪具をこれみよがしに身体中に散りばめた姿は、見紛いようもない。
 アレキサンドライトもまたミルドレッドの姿を見つけると、気のいい老婆を装い声を掛けてきた。
「ほっほっほ、これはこれはミルドレッド。そなたもこの大会に出ておったのか。奇遇じゃのう。まあ、こんな滅多にない機会、出ないほうが惜しいものじゃしのう」
 ミルドレッドは内心「嫌な奴に出会った」と唇を噛んだ。が、表面上は彼女にしては精いっぱいの敬意をこめて接する。
「これはアレキサンドライト様。こんなところでお会いできるとは光栄ですわ。あまりご無理はなさらないでくださいね。お体に障りますわ」
 アレキサンドライトはその気遣いに皮肉を感じ取り、ミルドレッドに対する憎々しさを募らせたようだ。そして彼女の新弟子を呼び寄せた。
「ふっ!余計なお世話じゃわい。クリスチーナ、お前も挨拶せい」
「ミルドレッド様!!お久しゅうございます!!クリスチーナですわ!憶えていらっしゃいますか?」
「クリス、あなたこの方の弟子になったの?!」
 ミルドレッドは驚愕した。クリスチーナ・ランセルは、ミルドレッドの元弟子だった少女だ。しかし、言霊がうまく覚えられず、修行の日々に耐え切れずに泣いて飛び出し、そのまま連絡がつかなかったのだ。
 てっきり言霊使いになるのを諦めたものと思っていたのだが、まさかアレキサンドライトの弟子になっているとは。
「ええ、アレキサンドライト様の下ではとてもよくしていただいてますの。これもミルドレッド様のところにいた時の下積みのおかげですわ。あの頃はご迷惑をおかけしましたの。でも、私、もう一人前の言霊使いですのよ」
 正直なところを言えば、ミルドレッドは夢見がちで乙女趣味のふわふわした不思議ちゃんであるクリスチーナとはとことん馬が合わなかった。だから無意識にきつく当たってしまったことを、我ながら大人げなかったと後悔していたのだ。そうか……。他の言霊使いの下で夢を叶えたのなら、よかったのかもしれない。 ミルドレッドは少し救われた気持ちになった。
「これから始まる本戦では、今までにないほど厳しい戦いが待っているわ。お互い生き延びましょう」
 ミルドレッドはクリスチーナに握手を求めた。クリスチーナはそれを受け入れ、両手でミルドレッドの手を握り返した。
「ええ、頑張りましょう、ミルドレッド様。せいぜい、死なないように」
 クリスチーナは握る手に爪を立て、ミルドレッドに爪痕を付けた。

「ミルドレッド様……。クリスは一生ミルドレッド様を追い続けますの。そしていつかあなたの玉座に座って見せますの。一生、あの厳しい日々を許さない……!」
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