第二章 奇跡使い対言霊使い

 奇跡使い対言霊使いナンバーワン決定戦の本戦が始まった。総勢50名強の強者たちが集ったが、皆神職の能力者達だ。見た目は物静かで華奢なので、どれほどの能力の持ち主なのか、外見からは判断出来ない。
「いよいよね。気を引き締めてかかりなさい」
『はい!』
 と、そこへテレビ局のインタビュー班がやってきた。
「シェグワルト・ダリア・放送局の者です。いよいよ本戦ですが、意気込みをどうぞ」
 テンパランスはいつものように、涼しい顔で答えた。
「なるべく負傷者を出さないように、全力で戦うのみです」
「宿敵ミルドレッドについては如何お思いですか?」
 しかし、ミルドレッドの名を出されて、テンパランスは顔色を変えた。
「あんな女に私が負けるわけがないでしょう!」
 テレビ局のスタッフは、狙い通りの反応が引き出せて満足そうに去っていった。しかし、テンパランスはうっかり冷静さを欠いてしまったことを後悔し恥じた。
「私ったら……つい……」
「まあまあ、テレビを見ている人も楽しんでますよきっと」
 アルシャインのフォローに、テンパランスは余計頭を掻きむしった。
「あああ……私ったら……私ったら……!」
 などと戯れていると、テンパランスの名を呼ぶ声が聞こえてきた。懐かしい声だ。優しい、壮年の紳士の声。
「テンパランス、久しぶりですね。貴女もここにいたのですか」
「あなたは!ジャッジメント様!お久しぶりです!まさか貴方がこのようなところにいらっしゃるとは!」
 テンパランスは弟子たちに紹介した。
「ジャッジメント様、これが私の弟子、アルシャインと、ニコ、私の世話をしてくれているイオナです。貴方たち、こちらの方が私の師匠、奇跡使いジャッジメント様です。頭を下げなさい」
 アルシャイン達が会釈すると、ジャッジメントは満足そうに頷き、彼の弟子を紹介した。
「テンパランス。うちの新弟子のポール・エスキースだ。ポール、挨拶しなさい」
 すると、ピカピカに剃り上げたスキンヘッドに不死鳥の入れ墨を掘った、その割には素直そうな少年が会釈した。
「お初にお目にかかります。ポール・エスキースです。お噂はかねがね」
 テンパランスがポールに手を差し出し、握手すると、ポールは茹でダコの様に赤くなり、さっと手を引いて俯いてしまった。
「女性というものにほとんど触れたことのない子なのだ。優秀な奇跡使いだよ」
 そうジャッジメントが説明すると、テンパランスは得心した。そういえば、テンパランスは男だらけの中で生活しているのでだいぶ免疫が付いたが、普通の奇跡使いの道場に女性はいないのだ。彼が免疫がなくても致し方ない。
「お互い、生きて帰りましょう。私たちも負けたりはしませんけどね」
 テンパランスが師匠にそう告げると、ジャッジメントもまた
「こちらも負けるつもりで来てはいないぞ」
 と、微笑んだ。

 テンパランスたちが離れると、ポールはジャッジメントに耳打ちした。
「いいのですか?あの弟子たちはどうせテンパランス様目当ての下衆な奇跡使いに決まってますよ」
 ジャッジメントはそこはよく理解している。
「多分な。だからこそ我々がふしだらな奇跡使いに鉄槌を下さなければならぬのだよ。なんとしても優勝するぞ。彼らに情けは一切要らない。大人しく化け物に食われてしまえばいいのだ。ああ、サシで戦いたかったよ」
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