第二章 奇跡使い対言霊使い

 ミルドレッドの屋敷の片隅の倉庫にて、三人の女が揉み合っていた。突き飛ばそうとする女。それに抵抗してしがみつき、振り落とされまいともがく女。口だけ出して見ている女。
 暴行を加えられていた女は遂に振り落とされ、地面に尻もちをつき、壁にしたたか背中をぶつけた。ドン!という派手な音が響いたが、駆け付ける者はいない。
 床に尻もちをついた女は、暴行を加える女達を睨みあげた。反抗的な目つきに、暴行を加えた女、ニナは、眉根を寄せた。
「なによその目は。ベルのくせに。何もしなかったあんたが悪いんでしょ?」
 ニナが暴行を加えるのを見ていたエラは、汚物を見るような目でベルを見下ろし、彼女を非難した。
「貴女今がどんな大変なときか解ってるの?下手したら死ぬような場面でも、なんで貴女はただ後ろで見てるだけだったの?ケフィだって戦ってたでしょう?」
 ベルは、「でも、生きてるんだから良かったじゃないですか」と口答えした。
「そういう問題じゃないっつってんの!ミルドレッド様も戦えって仰ってたのに、あんたはただ見てるだけ。何を考えてるの?馬鹿なの?馬鹿なんだよね?あんたみたいな馬鹿、ウチに要らないんだけど?」
 ニナは未だ転がっているベルを足蹴にした。
「言いたいことがあるなら言いなさいよ?今なら聞いてやるからさ?」
 エラの問いに、何かを口にしようとして唇を微かに震わせたベル。しかし、言いかけて、また黙った。
「何?何なの?」
「何でもないです……ごめんなさい。次こそは頑張ります」
「嘘つけ!」
 ニナはベルの顎を思いっきり蹴り上げた。しかし、何をされてもベルはただじっと耐え、されるがままになっている。
「もういい。気分悪い。ニナ。行こう。こいつは気が済むまでここで泣かせてやりなよ」
 エラが制止するので、ニナは暴行するのをやめ、最後にベルを一瞥すると、エラの後についていった。
「痛い……」
 取り残されたベルは、傷を癒す言霊を唱え、自分の怪我を癒した。

「ムカつく」
 ミルドレッドの屋敷のリビングルームで、ソファーに座り苛立つエラに取り入るように、ニナがそれに同調する。
「あいつマジなんなの?ほんとムカつく」
 すると、エラはニナが驚くようなことを口にした。
「あいつ、本当は私より言霊使う能力強いのよ」
「え?!」
「なのに、ある日を境に全く使わなくなったの。私を軽蔑するような目で見て。ムカつく。力が使えるくせに、頑張らないやつって本当ムカつく。あいつ、今も私を心の中で見下してるんだわ」
 弟子になって日が浅いニナは、エラの告白が信じられなかった。ニナはずっと、ベルが無能で、イラつくから、ベルを見下して虐めているのだと思っていた。それが、実は違う……?見下してるのは、ベルの方?
「エラ、それ、どういうこと?あのベルが、本当は強い?信じらんないんだけど」
「ニナ、貴女は知らないでしょうね。ベルは、ミルドレッド様も知らないような言霊を最初からバンバン使う子だったの。私もベルから言霊を習ったわ。でも、それで感謝したら、ベルは、私を軽蔑して……!」
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