第二章 奇跡使い対言霊使い
第二次予選が始まった。会場は前回と同じ競技場だったが、今回は顔ぶれが違う。今回の出場者は前回の予選を勝ち抜いた、国中の猛者が集っているのだ。この中の何組かが本選大会に勝ち進む。
競技場前の広場は沢山の出場者でひしめきあっていた。
「てっ……テンパランス様。おっ……お久しぶりです。へへ……」
不意に声を掛けられて、振り返ったテンパランスは、その顔を見て反射的に顔をしかめた。できれば会いたくなかった顔だった。
「ゴライアス……久しぶりね」
その名を聞いて、アルシャインも振り返り、慌ててテンパランスを背に庇った。
「ゴライアス。君も来ていたのか」
言外に「テンパランス様に近づくな外道」という鬼気を発して。
ゴライアスと呼ばれた男は、すかさず立ちはだかったアルシャインの姿に、顔を歪めた。
「あっ……アルシャイン。きっ……君、まままだテンパランス様のところにいたのか」
「ゴライアス、知り合いか?」
ゴライアスの仲間が話しかけ、ゴライアスは先程よりか幾分聞き取りやすい口調で答えた。
「あっ、ああ、昔の、ししし師匠だ」
そんなやり取りをしていると、甲高い高笑いを上げながら、ミルドレッド達が現れた。
「おぉーっほっほっほ!あ、ちょ、ごめんあそばせ。テンパランス、こんなとこに……あ、ちょっと通して。こんなとこにいたのね!」
颯爽と現れる算段だったが、この人混みに揉まれて、縫うようにやって来たミルドレッドは、髪が乱れてあまりカッコいい登場シーンとはいかなかったようだ。
「ミルドレッド……貴女まで……嫌だわ。試合前に憂鬱にさせるのはやめてくれない?」
テンパランスは鈍い偏頭痛を感じ、頭を押さえた。
「今回も勝ち進むのはあたしたちよ!せいぜい足掻きなさいな」
「たたた、確かお前は、みっ、ミミルドレッド」
「あん?誰よアンタ?」
ゴライアスは一方的にミルドレッドを知っていた。しかし、ミルドレッドにとっては今も昔も、その他大勢の中の一人という認識だった。
「むむ……昔、て……テンパランス様の弟子だった者だ」
「そして、テンパランス様にその汚い手で触れ、天罰が下り破門された男だ」
アルシャインがつけ足した。
テンパランスの脳裏に、あのときのシーンが蘇る。力任せに組み敷かれ、汚らしい唇が迫ってくる――。
「ああ、そういえば貴女、嫌な弟子をバスバス切り捨てて破門にしていって、結局一人しか弟子が残らなかったのよね。あ、今は二人か。ふーん」
ミルドレッドは内心少しテンパランスに同情した。やってくる弟子がすべて男の世界に、女は自分ただ一人。そんな世界に居たら嫌なことも山ほどあるだろう。だが、憐れむような態度はとらなかった。あたしには関係ないわ。
と、そこへ、場内放送でアナウンスが流れた。組分けの抽選会の知らせだった。
「行くわよテンパランス。初戦敗退させてあげるからね」
「ええ、それはこっちのセリフよ」
テンパランスの手を引き抽選会場に向かうミルドレッド。柔らかな細い女の手に握られて、普段憎いと思っていた彼女の存在に、今は少し救われた気がしたテンパランスだった。
競技場前の広場は沢山の出場者でひしめきあっていた。
「てっ……テンパランス様。おっ……お久しぶりです。へへ……」
不意に声を掛けられて、振り返ったテンパランスは、その顔を見て反射的に顔をしかめた。できれば会いたくなかった顔だった。
「ゴライアス……久しぶりね」
その名を聞いて、アルシャインも振り返り、慌ててテンパランスを背に庇った。
「ゴライアス。君も来ていたのか」
言外に「テンパランス様に近づくな外道」という鬼気を発して。
ゴライアスと呼ばれた男は、すかさず立ちはだかったアルシャインの姿に、顔を歪めた。
「あっ……アルシャイン。きっ……君、まままだテンパランス様のところにいたのか」
「ゴライアス、知り合いか?」
ゴライアスの仲間が話しかけ、ゴライアスは先程よりか幾分聞き取りやすい口調で答えた。
「あっ、ああ、昔の、ししし師匠だ」
そんなやり取りをしていると、甲高い高笑いを上げながら、ミルドレッド達が現れた。
「おぉーっほっほっほ!あ、ちょ、ごめんあそばせ。テンパランス、こんなとこに……あ、ちょっと通して。こんなとこにいたのね!」
颯爽と現れる算段だったが、この人混みに揉まれて、縫うようにやって来たミルドレッドは、髪が乱れてあまりカッコいい登場シーンとはいかなかったようだ。
「ミルドレッド……貴女まで……嫌だわ。試合前に憂鬱にさせるのはやめてくれない?」
テンパランスは鈍い偏頭痛を感じ、頭を押さえた。
「今回も勝ち進むのはあたしたちよ!せいぜい足掻きなさいな」
「たたた、確かお前は、みっ、ミミルドレッド」
「あん?誰よアンタ?」
ゴライアスは一方的にミルドレッドを知っていた。しかし、ミルドレッドにとっては今も昔も、その他大勢の中の一人という認識だった。
「むむ……昔、て……テンパランス様の弟子だった者だ」
「そして、テンパランス様にその汚い手で触れ、天罰が下り破門された男だ」
アルシャインがつけ足した。
テンパランスの脳裏に、あのときのシーンが蘇る。力任せに組み敷かれ、汚らしい唇が迫ってくる――。
「ああ、そういえば貴女、嫌な弟子をバスバス切り捨てて破門にしていって、結局一人しか弟子が残らなかったのよね。あ、今は二人か。ふーん」
ミルドレッドは内心少しテンパランスに同情した。やってくる弟子がすべて男の世界に、女は自分ただ一人。そんな世界に居たら嫌なことも山ほどあるだろう。だが、憐れむような態度はとらなかった。あたしには関係ないわ。
と、そこへ、場内放送でアナウンスが流れた。組分けの抽選会の知らせだった。
「行くわよテンパランス。初戦敗退させてあげるからね」
「ええ、それはこっちのセリフよ」
テンパランスの手を引き抽選会場に向かうミルドレッド。柔らかな細い女の手に握られて、普段憎いと思っていた彼女の存在に、今は少し救われた気がしたテンパランスだった。