第二章 奇跡使い対言霊使い

 グラウンドに入って、ミルドレッド達は驚愕した。本当に伝説の中にしかいないはずのアディペムンドゥが目の前に立ちはだかっている。
 ヒキガエルのように丸々太った、見上げるほどの巨体で四つん這いの化物。周囲には腐った卵のような異臭が漂っている。
 プァーッとサイレンが鳴るとそれが試合開始の合図だった。アディペムンドゥが太った体の割には素早い動きで突進してくる!
「風の神!」
「重力の神!」
 共闘している奇跡使いの先制攻撃にも怯まず、アディペムンドゥは恐怖に慄いて動けなかった奇跡使いを捕まえ、地面に叩きつけ、頭から喰らった。
「うわあああ!」
「ヤバい、喰われるぞ!」
 共闘していたグループが何組か撤退した。仲間を喰われたグループはありったけの奇跡の力をぶつけたが、あまり効果がない。
「陽の光に大地の奥に、竈の中におわします、炎を司りし古霊・フランマよ!忌まわしき罪人を火炙りにし給え!黒焦げになりなさい!」
 ミルドレッドが放った炎の言霊がアディペムンドゥを覆った。化物は苦しみのたうち回ると、炎に焼かれながら尚も凶暴に暴れまわった。
 エラがそれに追撃する。
「愛の古霊アマーレの双子の古霊、憎しみの古霊オディウムよ、彼の醜悪な敵の命の鼓動を止めたまえ。心の臓を握りつぶし、今こそ彼奴に憎しみの鉄槌を!」
 しかしアディペムンドゥはケロッとしている。
「エラ、アディペムンドゥは普通の生き物じゃないわ、古霊よ。それじゃダメ」
 ミルドレッドは違う様式で言霊を練り上げた。
「憎しみの古霊オディウムよ、彼の古霊の愛、信仰、崇拝を憎め!集めた信仰心よ、彼の古霊に牙を向き給え!!」
 実はミルドレッドですら、古霊に言霊をぶつけるのは初めてのことである。だから、このオリジナルの言霊が無事発動するかどうかは賭けだった。即席で絞り出した言霊だったが、オディウムは聞き届けてくれるだろうか。
「ム……グググ……ぐぎゃおおおおおお!!!!!」 
 発動まで数秒待ったが、やがてアディペムンドゥは断末魔の叫び声をあげて崩壊した。グズグズ形が崩れていったそばから、蒸発するように天へと昇って行った。
 勝敗は全員無傷で、且つ、止めを刺したミルドレッド達に軍配が上がった。
「やりましたねミルドレッド様!!」
「さすがですミルドレッド様!!そんな言霊があるなんて!!」
 弟子たちはミルドレッドに尊敬の眼差しを向けたが、ミルドレッドは内心冷や汗をかいていた。オリジナルの言霊は一歩間違えれば盛大に失敗する。オディウムが願いを聞き届けてくれて心の底から助かったと胸を撫で下ろした。
「貴方達も教えたとおりにやるだけじゃなくて、時と場合によって言霊を考えなさい。それができて初めて一人前の言霊使いよ」
「はい!」
 エラとニナは威勢良く返事したが、ケフィとベルはまた違った気持ちでその言葉を受け止めた。
 『時と場合によって言霊を考える』。それは、醜い人殺しだけが、他人を呪うだけが言霊じゃない。使いようによっては新しい言霊もあるのだ。そう、ケフィは思った。一方ベルは、また違うことを考えていたのだが……。
「ハァイ、くそブス女。余裕で勝ったわよあたしたち。次はあんたたちね。精々死なないように気をつけなさい。死んでくれたほうが有難いけど」
 ミルドレッド達は出番待ちをしていたテンパランス達にそう声をかけた。
「あら、逃げなかったのね、バカ女。残念だわ」
 次はテンパランス達の出番である。
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