第二章 奇跡使い対言霊使い

 今から10年ほど前の話だ。テンパランスは当時、言霊使いになるべく、とある言霊使いの下へ入門した。しかし、いくら言霊を勉強しても一向に言霊が使えず、おかしな力ばかり暴発して、うだつの上がらなかったテンパランスは、同門のミルドレッドたちグループに虐められる日々を送っていた。
 いつか見返してやろう。そう皆を呪う日々を送っていたところ、或る夜夢の中の何もない空間で、声だけが響き渡った。
「お前はいくら言霊の修行をしても言霊が使えるようにはならない。お前は奇跡使いだ。奇跡の使い方を教えて進ぜよう。その力をもってお前を虐げる者たちへ報復するがいい」
 真夜中に目を覚ましたテンパランスは、独り道場で奇跡の力を使ってみた。するとどうだろう。今まで暴発していた不思議な力が、掌の上で自由自在に転がるではないか。
 翌日、修行を辞めることを師匠に告げると、またミルドレッド達がやんやとテンパランスをからかった。するとテンパランスは、重力の神を呼びだし、ミルドレッド達を床に天井に壁に自由自在に操って叩き付け、見事積年の恨みを晴らし、道場を後にしたという。
 それからテンパランスは数年間とある奇跡使いの下に入門し、修行を積んだ後、独立したという。
 それからというもの、ミルドレッドも努力して世界一と呼ばれるようになり、テンパランスも世界で唯一の女性奇跡使いとして有名になり、世間はミルドレッドが最強か、テンパランスが最強か、しきりに二人を戦わせたがった。
 次第に二人もお互いを強く意識するようになり、今に至るのである。

 こんな長い話を、ニコが大人しく聞いているはずもなく、彼はテレビのチャンネルをカチャカチャ変えて、つまらなそうにテレビを見ていた。
 話を聞いていたイオナとアルシャインは、納得がいったようである。初めて聞くテンパランスの生い立ちに、二人はため息をついた。
「そんなことがあったんですね。だからあの人はやたらとテンパランス様に食って掛かるんですね」
「きっとこんなニュースが話題になってる陰では、私とあの女を戦わせたがってる連中もいるんでしょうね」
 イオナは自分に奇跡が使えるわけでもないのに、なぜだか闘志が湧いてきた。
「それじゃあ、ますますこの大会に出ない理由はないですよ!!ミルドレッドさんに、テンパランス様が最強だって、見せつけてやらなくちゃ!それに、チーム戦でしょう?ウチにはニコもいるもの、絶対楽勝ですよ!!」
 昔のことを思い出す羽目になったテンパランスは、過去の怒りがフラッシュバックして、なぜだか無性にミルドレッドをやっつけてやりたくなった。
「そうね。あの女に目にもの見せてやりましょう。ニコもいるし、きっと勝てるわ」
 アルシャインだけが慌てていた。そういえば、こんな話をする前は、このイベントに否定的だったはずではなかったのか。
「え?出るんですか?死ぬかもしれないから出ないっていう話では……?」
 テンパランスは怒りに駆られて我を見失っていた。
「出るわよ、死にはしないわよ、私たちは奇跡使いよ。どうとでもなるわ」
 表情を変えないまま「ふふふふふ」と不敵に笑い始めたテンパランスに、アルシャインは悪魔の顔を見た思いがした。
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