【番外】奇跡使いと言霊使いの収穫祭

 宴も終盤に差し掛かり、食卓の上の料理はほとんど片付き、酒やドリンクをちびちび飲みながら、一同は最近の近況を語り始めた。
「戦争になるとかならないとかいう話だったでしょう?」
「ああ、あったわね」
「あたしたち、兵器開発だったらしいのよ、やっぱり、あれ」
 半年前まで携わっていた研究施設への出向について、ミルドレッドはおもむろに口にし始めた。
「おかしいと思ったのよね。結局、あの技術はほかのことに利用されることになったみたいだけど」
「他のことって?」
 一般市民のメイドに過ぎないイオナは、研究施設で何をさせられたか想像がつかない。詳しく聞きたがるのも無理はないだろう。
「あたしたち言霊使いは、言霊を、言霊の力だけ録音して使うっていう研究をしたの。結果、万引き防止や食欲・購買意欲増進として、飲食店や店舗のBGMに使われることになって、今研究されてるらしいわ」
「あたしたち奇跡使いの力は、そんな穏やかな物じゃなくて、やっぱり兵器開発としてまだ研究されてるらしいわよ」
 テンパランスは仲間から風の噂で聞いた話を披露する。知らなかったとはいえ、悪の力に加担してしまったことに胸を痛めていた。
「奇跡の小瓶の生産を機械制御にする研究もされていますが、神の力を工業に使われるのは嬉しくないですね」
 アルシャインも、工業新聞の記事を斜め読みして得られた情報に、目を伏せて溜め息をつく。
「やっぱり、近いうちに戦争あるんでしょうか?」
 エラの心配する声に、ケフィも不安を口にする。
「僕たちのやったことが社会を悪い方に変えてしまうのは、ちょっと、本意ではないです」
「俺、それよりちょっとやべー話掴んだんだよな」
 ガイが不穏なことを話し始める。
「何?」
「お前らの研究した国家機密、スパイに盗まれたって噂がある」
『ええ?!』
 一同が一斉に声を揃えて驚くと、「マジらしいぞ」と、ガイは続ける。
「とある筋からな、マジな話らしい。もう、どこに盗まれたか、機密情報の資料、金庫にはないらしいぜ」
 重苦しい空気が立ち込め、じっとりとした沈黙が場を支配する。
「いつまで、平和でいられるのかしら」
 ベルがポツリと沈黙に言葉を落とすと、それに触発されて、イオナが持ち前の明るさを奮い立たせた。
「また、また来年も楽しい収穫祭になるように、祈りましょう?皆さん、神様に近い方々なんですもの、神様に祈ってくださいよ、また来年も一緒に収穫際しましょうって!」
「そう……ね」
 テンパランスがそれに賛同すると、ちらほらと蕾が開くように皆がそれに賛同し始めた。
「そうだな」
「そうね、また来年」
「やりましょう、来年も」
「いいこと言うじゃない、イオナ」
「……はい」
「うん!」
「……ですね、祈りましょう」
 ケフィが最後を締めくくる。
「神様や古霊に祈って、また来年も、一緒に!乾杯!」
『乾杯!』
 最期の締めに、グラスの中身をぐいと一気にあおって、宴はお開きとなった。
 願わくは、いつまでも仲良く、平和に、日々の仕事に精を出して、代り映えのしない毎日を、不平不満を愚痴りながら、笑いあって送りたいものだ。
 また来年も、そのまた来年も、一緒に収穫祭を祝おう。ごちそうに舌鼓を打つ、君の笑顔が好きだから。
END.
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