【番外】奇跡使いと言霊使いの収穫祭

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「ハーモサンダ・ギー切り分けようか?アルシャインやる?」
「あ、やります。すみません、ナイフを」
 ガイがアルシャインに声をかけると、アルシャインはガイからナイフを受け取り、【ハーモサンダ・ギー】を十等分に切り分けた。ハーモサンドは四つ足の獣で、中型犬と大きめの猫の中間ぐらいの大きさの草食動物だ。それを丸焼きにしたハーモサンダ・ギーは祝いの席でよく丸焼きにされて出されるため、剥いだ毛皮は毛皮のコートや襟巻などの服飾に利用されている。収穫祭ではゴルシチョンボに並ぶメインディッシュだ。
「この獣臭さが美味しいのよね。肉食べたーって感じがする」
 ニナが肉を噛みしめて体を震わせながら一年に一度のごちそうに舌鼓を打っていると、エラが「解るー!あたしもハーモサンダ・ギーのために生きてる!」と賛同する。
「ベル、ちゃんと食べてる?」
 先ほどから一言も口を開いていない、この事務所最強の、しかし最も控えめで印象の薄いベルは、御馳走に舌鼓を打つ皆を眩しそうに眺めてほとんど口をつけていなかった。それを彼女の恋人であるケフィが気遣う。
「大丈夫よ。ちゃんと食べてる。でも、ふふっ。みんな美味しそうに食べるなあって、見ているだけで幸せそうで、食べるの忘れちゃう」
 それは聞き捨てならないと、テンパランスがベルのために料理をいくつか皿に取り分けて押し付けてきた。
「駄目よ!みんな夢中で食べてるんだから、食べる分なくなっちゃうわよ!食べなさい、どんどん!ケフィもぼーっとしてないで、ベルに料理取り分けてあげなくちゃ!」
「あ、お構いなく。ありがとうございます」
 ベルが遠慮がちに皿を受けとり、仕方なしに口に運んでみせる。
「ごめん、気づかなくて」ケフィが謝ると、「いいのよ。ちゃんと食べるから」とベルが宥めた。
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「まだゴルシチョンボ食ってねえな皆!好き嫌いはよくねえぞ!」
 ガイがニカッと笑いながらゴルシゲイラという魚をネバチョンボで味付けした煮魚・【ゴルシチョンボ】の目玉を掬い上げて頬張って見せる。
「ぐえ~~~~!!」
「やだ~~~~いらないです~~~!」
 イオナとニナはゴルシゲイラが嫌いなので、悲鳴を上げてガイに抗議する。ゴルシゲイラは目玉が沢山並んでいるヒラメのような魚で、体の片側に目玉が並び、フリスビーのように水平に移動するのだが、その目玉の周りの血合いには苦みやエグ味があるため、苦手な人も多い。しかし、皮の下は分厚いコラーゲン層があってプルプルしているため、皮ごと食べれば女性にとってうれしい魚なのだ。
「ゴルシチョンボ食わないと肌がカサカサになるぞ!」
「年に一回しか食べられないのに食べないと肌が荒れるならどっちみち肌荒れます!」
「すみませんね!これでも基礎化粧大事にしてるんで結構です!」
 ニナもイオナもゴルシチョンボに対してだけは頑として食べない姿勢を崩さない。去年に引き続き口説いてみたガイだが、今年も二人を仲間に引き入れられなかったようだ。
「いいわよいいわよ、年寄りチームでありがたく食べましょ」
「美味しいのにもったいない」
年長者のミルドレッドとテンパランスが皮を剝ぎ身をほぐしてガイとアルシャインの分まで四人分に取り分けた。
「んん~~!とろっとろで美味しい!!」
「このコラーゲンたっぷりの皮が美味しいのよね!」
 中年に差し掛かり始めたミルドレッドとテンパランスは、ゴルシゲイラのコラーゲンが有難くてたまらない。年に一度しか食べられないため、一年分蓄えてやるつもりで味わう。
「よかったら、僕のも食べますか?」
 アルシャインが遠慮がちに妻であり師匠のテンパランスにゴルシチョンボを分けようとすると、「ええ~?いいの~?」と遠慮がちにテンパランスは器を受け取り、ミルドレッドとさらに半分に分け合いっこした。
「い、意地汚い……」
 ニナが思わず心の声を吐露すると、テンパランスとミルドレッドは刺すような目でニナを睨んだ。ニナはくるりと目を泳がせて、し~らないとでもいうようにミニポンポを摘んで口に放り込んだ。
「み、ミニポンポ、美味しい~」
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