【番外】奇跡使いと言霊使いの収穫祭

「ニコ、収穫祭好き?」
 重度自閉症のニコはニコニコしながら大きく頷いた。
「すきー」
「さあ、ミルドレッド様のお屋敷に着いたよ。荷物下ろそう」
 そうこう話しているうちに、車はミルドレッドの屋敷に到着した。

 ここでこの時代について少し触れておこう。この時代は地球の西暦で言えば一九六〇年代のちょっぴりレトロな時代である。テレビはブラウン管で、まだまだ白黒テレビが大半を占めている。チャンネル切替はダイヤル式だ。電話は黒電話が主流で、花の形をあしらったお洒落な金属製の電話を持つのがお金持ちのステータスになっていた。無論スマートフォンやPCなどは無いし、家電の種類も限られている。冷蔵庫や洗濯機などはあるがだいぶレトロだし、車はマニュアルだ。地下鉄や電車も通っていることは通っているが、都市部に集中しており開発途上である。電子レンジはまだ開発途上で、ガス式のオーブンや電熱線式のオーブントースターが主流だった。
 宗教法人であるミルドレッドの事務所やテンパランスの事務所は、信者からのお布施で比較的裕福な生活をしているためこれら最新の家電を揃えているが、一般家庭にはまだまだ手が出ない代物が多い。そのため、ガイのように長年言霊使いの手伝いをしている者でもなければ、大掛かりな調理家電を使いこなせないのである。イオナはその点において、ガイを尊敬していた。大きな肉の塊を大きなガスオーブンでこんがり焼き上げる豪快な男の料理はみんなの憧れである。年に一度振る舞われるガイのオーブン料理は誰もが楽しみにしていた。
 
「ごめんください」
 テンパランスがノッカーを鳴らして声をかけると、中から「はーい」と元気のいい声が聞こえてきて、けたたましい足音とともにミルドレッドの弟子の言霊使い・ニナがドアを開けた。
「いらっしゃいませテンパランス様!皆さん!」
「ニナ、相変わらず元気ね」
 クックッと苦笑交じりにイオナが言うと、ニナはエヘヘと頭を掻いた。と、少し遅れて奥からミルドレッドが出迎えた。
「いらっしゃい。時間ピッタリね、相変わらず」
 ミルドレッドが皮肉を言うと、テンパランスも皮肉を返す。
「誰かさんと違って規則正しい生活をしているから」
「言ってくれるわね」
「ふふふ。なんてね。遅くても早くても困るでしょう?」
「確かに。助かるわ」
「入って」と促されて奥に進むと、なるほど新しい事務所は広くて綺麗で塵一つ落ちていない。信者から贈られたのだろう、高そうな調度品が背の高い置台に据えられ、廊下に高級感をもたらしている。
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