【番外】凍り付いた感情が溶けた日

 それ以降、テンパランスは感情を封印することを一切やめた。
 よく笑い、よく泣き、よく怒るようになった。リアクションも驚くほど豊かになった。人形に血が通って動き始めたかのように、氷の女だったテンパランスに、人間らしさが宿った。
 感情豊かになったテンパランスは、意外とおっちょこちょいで、おちゃめな人物であることが分かった。笑顔はハッとするほど柔らかく美しく、幸せそうな顔をする。
「なんか最近顔中が痛いの。なんでかしら?」
 洗面台の鏡を見ながら変顔をするテンパランスを横で見ながら、イオナは言った。
「表情筋が筋肉痛になってるんじゃないですか?」
「あー、そうかしら。なんか、聞いたのよね。表情筋使わないと老けるらしいんですって。表情筋、鍛えないとね!」
 そう言って、テンパランスは今まで誰も見たことがないような変顔をし続けた。
「あたしも顔の体操しよう!」
 イオナが隣に立ち、テンパランスに負けないように変顔をする。
「何その顔――!!ちょっと笑わせないで――!!」
「さっきのテンパランス様のほうが変な顔してましたー!」
 洗面所に用があったアルシャインがそれを見て笑った。大騒ぎする三人の楽しそうな雰囲気につられて、ニコもやってきた。
 四人の変顔大会で、四人は腹筋が疲れるほど笑い合った。
 あの一件以降、静かだったテンパランスの事務所から、よく笑い声が響くようになったという。

END.
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