奇跡使いと言霊使い
ケフィはある日、故郷の街ガリントンへ里帰りした。しばらくぶりに見る母は、少し年老いてやつれたように見える。ケフィの母リマニは車椅子を手で回し、息子を出迎えた。
「母さん、僕、言霊使いになったよ」
「そうかい、言霊使いになったかい。仕事はうまくいってるの?」
「うん。世界で僕にしか使えない言霊も使えるようになったよ」
「それはすごいね。貴方は私の自慢の息子だよ」
「だから、今日はその力を母さんに使ってあげようと思って」
「まあ、拝んでくれるの?」
ケフィはふーっと息を吐き出し、心を落ち着けると、深く息を吸い込んで回復の言霊を唱えた。
「愛の古霊アマーレよ、我が母リマニの負いし深い傷を癒し給え。そして再び自由な体を授けよ!」
ケフィの言霊のリボンは、輝きながら母リマニの身体を包んだ。
「母さん、立ってみて」
そんなまさか、と思ったが、母の下半身がじわじわとむずがゆさを感じ始めた。今まで無感覚だった下半身に、感覚が戻ってきた。
「あら、触ってもわかるわ。おむつがいつの間にか濡れていたのね。私、立てるの?」
ケフィは手を貸した。母は恐る恐る下半身に力を入れてみた。足が動く。車椅子の足掛けから足をおろし、大地を踏みしめる。
「嘘みたい。私、立ってる!!ああ、神様、私、立ってる!!」
「母さん!!」
ケフィが母を抱きしめた。
「よかった。ずっと治してあげたかった。治ってよかった!母さん!!」
ケフィは涙を流して母を抱きしめた。リマニはまだあっけにとられて夢の中にいるような心地だった。
「ありがとうケフィ。まだ嘘みたいよ。ありがとうケフィ。ああ、なんていい子」
一歩、二歩、リマニは大地を踏みしめる。筋力が衰えていたので、三歩目にはへたり込んでしまったが、もう諦めていた歩くという行為に、感動のあまりむせび泣いた。母子はそのまましばらくお互いを抱きしめ、声をあげて泣いた。
斯くて、ケフィは悲願の母の治療を叶えた。
その後、ケフィは独立し、男言霊使いセツと名を変え、人々のために力を揮い続けることとなる。
人を呪う言霊使いではなく、人を救う言霊使いとして。
言霊使いセツの言霊は、数多くの人々をまるで奇跡のように救い続けた。
国の軍事研究施設の地下、最深部の立ち入り禁止区域に、侵入者があった。センサーが感知し、研究所内はブザーが鳴り響いた。
「侵入者だ!!逃がすな!」
警備員は出口をふさいで警備に奔走したが、怪しいものは捕まえられなかった。
その後、警備員が確認した立ち入り禁止区域からは、重要機密文書と、カセットテープの入ったケースが紛失していた。
能力者たちが研究した軍事開発の研究結果は、何者かによって持ち去られ、いまだ見つかっていない。
THE END.
「母さん、僕、言霊使いになったよ」
「そうかい、言霊使いになったかい。仕事はうまくいってるの?」
「うん。世界で僕にしか使えない言霊も使えるようになったよ」
「それはすごいね。貴方は私の自慢の息子だよ」
「だから、今日はその力を母さんに使ってあげようと思って」
「まあ、拝んでくれるの?」
ケフィはふーっと息を吐き出し、心を落ち着けると、深く息を吸い込んで回復の言霊を唱えた。
「愛の古霊アマーレよ、我が母リマニの負いし深い傷を癒し給え。そして再び自由な体を授けよ!」
ケフィの言霊のリボンは、輝きながら母リマニの身体を包んだ。
「母さん、立ってみて」
そんなまさか、と思ったが、母の下半身がじわじわとむずがゆさを感じ始めた。今まで無感覚だった下半身に、感覚が戻ってきた。
「あら、触ってもわかるわ。おむつがいつの間にか濡れていたのね。私、立てるの?」
ケフィは手を貸した。母は恐る恐る下半身に力を入れてみた。足が動く。車椅子の足掛けから足をおろし、大地を踏みしめる。
「嘘みたい。私、立ってる!!ああ、神様、私、立ってる!!」
「母さん!!」
ケフィが母を抱きしめた。
「よかった。ずっと治してあげたかった。治ってよかった!母さん!!」
ケフィは涙を流して母を抱きしめた。リマニはまだあっけにとられて夢の中にいるような心地だった。
「ありがとうケフィ。まだ嘘みたいよ。ありがとうケフィ。ああ、なんていい子」
一歩、二歩、リマニは大地を踏みしめる。筋力が衰えていたので、三歩目にはへたり込んでしまったが、もう諦めていた歩くという行為に、感動のあまりむせび泣いた。母子はそのまましばらくお互いを抱きしめ、声をあげて泣いた。
斯くて、ケフィは悲願の母の治療を叶えた。
その後、ケフィは独立し、男言霊使いセツと名を変え、人々のために力を揮い続けることとなる。
人を呪う言霊使いではなく、人を救う言霊使いとして。
言霊使いセツの言霊は、数多くの人々をまるで奇跡のように救い続けた。
国の軍事研究施設の地下、最深部の立ち入り禁止区域に、侵入者があった。センサーが感知し、研究所内はブザーが鳴り響いた。
「侵入者だ!!逃がすな!」
警備員は出口をふさいで警備に奔走したが、怪しいものは捕まえられなかった。
その後、警備員が確認した立ち入り禁止区域からは、重要機密文書と、カセットテープの入ったケースが紛失していた。
能力者たちが研究した軍事開発の研究結果は、何者かによって持ち去られ、いまだ見つかっていない。
THE END.